30.8話《柳生石舟斎宗厳》書籍版5巻・コミックス1巻大好評御礼・特別SS

《柳生石舟斎宗厳》




織田信長からの呼び出しだと、まさか柳生の郷を明け渡せと?


その時は差し違えてでも、首を取る。


安土城に登城すると、意外にも側近・森蘭丸に丁寧に案内された。




「上様は天主最上階におられます。 腰の物をお預かりさせていただきます」




「うむ」




太刀を渡すと、小太刀までもと促された。




「小太刀も預からせていただきます。 あらかじめ言っておきますが柳生殿にとって悪い話ではありませんので、上様の首などと考えているならお捨てになられて下さい」




若輩にして近習取り纏め役に拝命されただけのことはあるか、森蘭丸。


だが、腹に隠した小さい刀があれば良いか。 これだけは隠して。




「そのような事は考えてなきこと、失礼な物言い無礼極まる」




「上様をお守りするのが、この私の役目、お許し下さい。 さぁ、あまり遅くなりますと、大和3万石が消えまするぞ」




「はぁ?人を馬鹿にするのもいい加減にせい、若造が」




なぜに3万石も儂がいただけるというのだ、馬鹿にしているのか?


だが、短気な織田信長を待たせるのは確かに良くない。


案内され天主最上階に入ると、琵琶湖を眺める織田信長の後ろ姿、今なら後ろから一突きで軽く・・・・・・。




「来たか、石舟斎」




「はっ、お召しにより登城いたしました」




「柳生石舟斎宗厳、安土城守衛剣術指南役、及び、儂の寝所を守る御庭番を命じ、大和笠置山一帯に3万石を与え、従六位上左近衛将監を言い渡す」




「それがしにその様な大役を?」




「いやか?」




「謹んでお受け致します」




なにを考えている?この男は?なぜだ?なぜにだ?その様な多くの褒美を貰える事などしていない、なぜにだ?


忍び嫌いだったのではないのか?




「今、どうしてだと考えているであろう?尾張の者でも雇えば良いと?」




「はっ、上様ご出身の地、尾張や美濃の者が適任かとは思いますが?」




「その美濃の者が裏切ったのだぞ」




「明智光秀・・・・・・」




「その明智光秀を討った男が貴様の息子を近習に欲しいと言う。 その者は陰陽道を極めし者、その男が欲しいと言う柳生なら儂も飼ってみたい」




「噂は入ってきております。 黒坂常陸介とか、なんでも塚原卜伝の弟子でもあるとか」




「忍びに調べさせたか?」




「はっ」




織田信長の睨む目、この眼光は師よりも鋭い。 勝てぬ。 今まで立ち合った強者より腹の内に構える太刀は鋭い。




「その忍びを使って、黒坂真琴を守れ。 それが本当の役目」




「では、剣術指南役は?」




「表向きよ。 貴様に3万石を与える理由をつけねばならぬからな」




「・・・・・・黒坂常陸介は、それほど大切なお方なのですか?」




「あぁ、大切だ。 我が野望を叶えるために、なくてはならぬ者。 心して守れ。 もし、黒坂真琴が誰かに討たれることあらば!わかるな!」




眼光が一瞬にして闇に変わった。


勝てぬ勝てぬ、この男には勝てぬ。




「はっ、わかり申した。 我が柳生の剣を叩き込んだ息子を頭に一族で守らせていただきます」




「うむ、それで良い。 それとな、黒坂真琴は陰陽道の使い手、先の世界を見ている。 なにか口走って聞いたとしても他言は一切ならん。 そして、それを詮索することも許さぬ。 良いな」




「はっ、仰せのままに」




「ならば、早々に息子を連れて、屋敷に出向け」




「はっ」




「下がって良い」




天主から出ると、私の背中は冷や汗でびっしょりだった。


この私がか?織田信長を恐れたというのか?


間近で接するとこれほどまでの威圧感、器が違いすぎる。


さて、巌勝は織田信長御側にして、新左衛門を元服させて黒坂常陸介に仕えさせるか。


宗章は徳川か?羽柴か?前田か?それとも北条か?毛利か?毛利だな。


毛利に仕えさせて、もしもの時に柳生の名が、剣が、絶えぬようにしなくてはなるまい。




織田信長を雷神と例えるなら、黒坂真琴は風神だった。


黒坂真琴、物腰の柔らかさとは裏腹に、見えぬように背負った袋に隠し持っている。


間違いない、この男も敵に回してはならぬ。


たった一度の剣捌きで、それを感じさせた。


あの二人が組めば、毛利も北条もすぐに消えよう。


足利義昭など匿っている毛利など、すぐに敵になろう。


毛利はおしまいだ。




宗章には京で道場を開かせて様子を窺うとしよう。




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