第993話 タイムマシーンの器

「タイムマシーンはね、科学の力だけでは不可能だったの」




科学者として科学の限界を認める佳代ちゃんは、悔しそうな顔を見せた。


歯がゆさを食いしばって堪えていた。




「越えられない壁は時間線だけではなかったんだね?」




「どういうことだ?」




時間線の概念は俺より織田信長のほうが意外にも理解している。


俺は様々な物語を見聞きしてしまったから固定概念に捕らわれているのかもしれない。




「動物実験を何回かしたのだけど、外傷が全くない死亡事故が起きていたの。全くの原因不明。そんなときに真琴君のお祖父さんが、『魂だけは時の壁を越えられないのであろう、魂は時間と共に存在しているからの』って、そしてね、陰陽道の呪法をこのマシーンに掛けてくれたら成功したの、だから私はそれに乗ってこの時間線に来られたの」




タイムマシーンから感じた呪法は、太陽の神、天照大御神と月の神、月夜見、そしてそれをつなぎ合わせる親神の伊弉諾、伊弉冉の御力を感じた。


他にも無数の神々の力、188柱を祀っている御岩神社で感じるような特別な神気。




「お祖父様だからこそ出来る複雑な呪法・・・・・・でも、この陰陽道の力を増幅させる事が出来る袋田大子城なら、信長様が息を引き取った瞬間、呪法でタイムマシーンを器として封印することが出来ると思います」




「え?魂を封印しても体は朽ちていくでしょ?真琴様」




「その問題ならおそらく解決できるよね?」




茶々の心配を佳代ちゃんに聞くと、




「DNAの保存さえ出来ればね。体は未来ならいくらでも作れるから」




「なんなら、ロボットに魂を込めても良いと思うけどね」




「体を作る?」




茶々は少し不快な顔を見せていた。




「ろぼっと、確か、絡繰り人形の事であったな?」




「えぇ、機械で動く人型の物ですが」




「ぬははははははっ、またそれも面白きこと、死と言う眠りの先には絡繰り物か?」




織田信長が大笑いをする、茶々は、




「私は人間であり続けたいです。ですが、真琴様が義父上様に付き合って未来に行くのであれば・・・・・・」




「俺は俺の事を上手く封印してくれる者がいないとね・・・・・・。兎に角、俺は信長様の夢を叶えて差し上げたいと思います。俺の人生、最高のハーレム人生、この上ない楽しい物でしたから」




本能寺から未来の知識を高く買ってくれ、大きな後ろ盾として世界を股に掛けた人生、織田信長がいればこそ。




「ぬははははははっ、そうかそうか?儂は助けられた恩を返しきれなかったと思っていたが、常陸は・・・・・・真琴は、この時代を楽しんだか、それは良かったよかったわ、ぬははははははっ」




「今度は信長様に未来の時間線を楽しんで貰えるようにしたいので、おそらく近いであろう最期の時まで、この城でお過ごしいただきたく」




97歳の織田信長、その歳を感じさせないほど元気だが、死期は確実に近づいている。


この城に結界を張っておけば突然の死でも、魂を黄泉の国にすぐさま飛んで行かない。


魂を捕まえさえすれば。




「人間五十年・・・・・・もう、その二倍近くも生きたのだ。様々な地に行き様々な物事を楽しんできた。残された時間も使いたいところではあるが、未来に希望が持てるなら、真琴の言うことを聞こうではないか。幸いにして袋田の滝、見ていて飽きぬからの、良い地だ」




「俺、自慢の茨城の景色ですから」




「ぬははははははっ、真琴の郷土愛は本物よな、ぬははははははっ」

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