第973話 山火事の惨劇

「ミライアの方様、大変です、大子の山が燃えております」


袋田の城の城代となった私は、赤々に染まった山をオルショリャと子供たちと見ていた。


「オルショリャは子供たちを守ってください。私は山火事の消火の指示をしてきます」


「わかったわよ、でも無理はしないでよ」


「心得ておりましてよ」


御主人様の留守を守る私の使命は子供たちを守り、この新しき城を守ること。


守らねば。


「兵と木こりなどを集めなさい。延焼を食い止めるために木々を切り倒すのです」


城までは火はまだ遠い、今なら木々を切り倒せば。


私は燃えている山の近くの陣で指揮を執る。


「貴様、なにもの、ぬわぁぁぁぁ」


「お方様、おにげください、うわぁぁぁぁ」


陣幕の外から血しぶきが幕にかかった。


レイピアを手に取り構える。


切り落とされた陣幕の先に現れたのは、真っ赤な忍び装束の者だった。


「ほほぅ、これは大物がつれたわい。手始めに山から焼いてみたのだが、まさか黒坂常陸の側室が自ら出てくるとはな?」


「貴様、何者?」


「ふはははは、死ぬ者に教える名などない、死ねぇぇぇぇ」


速い、私の突きより速い剣撃、追いつかない。


「ふはははは、遅い遅い遅い、ふはははは」


「お方様ーーー」


「邪魔だ、すっこん出ろ」


そう言うと、黒に染められた人型の紙を護衛の兵士に投げつけると突如全身が火にくるまれた。


「貴様、人ならざるものか?」


「さ~て、どうかな?お遊びはここまでだ、貴様も灰になれ」


・・・・・・投げつけてきた黒い人型の紙をレイピアで切り捨てるとと同時に、真っ赤な忍びは突き進んできた。


ドスッ・・・・・・


「ぐふぇ、わたしが・・・・・・わ・・・た・・・しが・・・・・・御・・・・・・主人・・・・・・さ・・・・・・」


「ふはははは、ふはははは、ふはははは、黒坂常陸、貴様の大切にしている者を壊してやったぞ、ふははははふははははふはははは」


◆◇《オルショリャ視点》◆◇


「なにがあったのよ、なにが・・・・・・」


山火事が消えた深夜、息が止まり変わり果てた姿で運び込まれてきたミライア・・・・・・。


「なんでよ、なにがあったのよ、なにがーーーーーーーーー」


「落ち着いてください、お方様、落ち着いてください」


「・・・・・・なにがあったか説明しなさい」


「山火事は油が撒かれた痕跡がございました。どうやらその油を撒いたと思しき忍びの者が、陣に現れ、ミライアの方様を」


「・・・・・・すぐに城の守りを固めなさい。それと、茨城城に戻られているはずの常陸様と高琴殿に、あっ、待ちなさい。他の城にも守りを厚くするように使い番を走らせるのです」


「はっ、すぐに」


誰かが襲ってきた。

誰?

常陸様のご帰国に合わせて?

なにが起きているっていうのよ。


ミライア、みんなでまた異国に行こうって世界を常陸様と一緒に回ろうって約束したじゃない。

なんで、死んじゃったのよ。


なんでなんでなんで・・・・・・。


「ママ、ママ、ママ、ママ、ママ起きてよ、ママ起きてよ、オルショリャ母上、なにがあったの?ママなんで死んでしまったの?」


泣きじゃくる天穂

あめほ

を私と菊理

くくり

とで強く抱きしめてあげることしか出来なかった。


「御岩の山に籠もっている熱田

あつた

と神産

かみむ

にも使いを走らせるのです。すぐに城に戻れと」


常陸様が来るまでの間、私が守らねば。


夜が明けると、熱田と神産が袋田の城に入城した。

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