第944話 信琴と高琴

 安土城から一時、常陸藩に戻ってきていた信琴は、高琴に任せてある領内を巡察した後、


「高琴、父上様のお考えの政治をよくわかっているな。このまま続けてくれ、民達がひもじい思いをしない国作りをな」


「はい、兄上様。それより聞いていますか?父上様は隠居所を常陸藩内に造りたいと言っていると」


「初耳だが?」


「お預かりしている御側室様や、弟妹を連れて袋田の滝に行ったときに申されたそうで」


「なら、間違いではないな。私は父上様は異国の地で過ごされると思っていたが、そうか、袋田付近か?でも冬場寒いぞ?」


「そうなんですよね、あそこは常陸藩でも珍しくよく雪が降る地なのですが・・・・・・温泉があるから選んだのでしょう。それにしても隠居所と申しても、やはり城を建てなければと思うのですが」


「財政的にはなんら問題なかろう。幕府には正式に手続きを取って築城する手はずを整えてくれ」


と、常陸藩の内政を任されている高琴は早速手続きを取り、築城の仕度を始めた。


「城は後回しでも良いか・・・・・・んむ、水路を重んじる父上様、久慈川、那珂川の水路を整備するのが先が良かろう。城は大子温泉か、袋田温泉に行きやすい地を考え・・・・・・藤堂高虎と山内一豊に任せるか」


家督を嫡男に譲った藤堂高虎と山内一豊は健在で、隠居となりながらも奉行として各地の道路工事や堤防工事などを監修する役目をしていた。


「藤堂高虎、大殿様隠居城建築を命じる。山内一豊、久慈川、那珂川水路としての工事を命じる」


と、高琴が命じると、


「大殿様の同盟者から人を雇っても、よろしいので?」


と、藤堂高虎が聞くと高琴は、


「資金は十二分にある。大殿様の名に恥じぬ城の建設を頼む」


「では、石加工に長けた技術を持つと聞くインカ帝国に頼んでもよろしいので?」


と、山内一豊が聞くと高琴は


「インカ帝国のお世継ぎは父上様の子、頼めば必ずや手伝っていただける。こちらから連絡しておこう」


「左殿は?」


と、藤堂高虎が行くと高琴は、


「柳生宗矩の城の築城が終わり次第来るように命じよう」


「大殿様の城、今までの集大成ですの」


と、藤堂高虎が言うと、


「・・・・・・うっ、父上様の御趣味に合わせた城だな・・・・・・うむ、父上様の部屋の手文庫に入っている絵画全てを使い切るつもりで装飾も考えてくれ」


「はっ、この高虎、生涯最後の城として全力を注ぎ込んで承りました」


「この一豊も美しき水路を造って見せましょう」


と、真琴の知らないところで事が進んでいた。

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