第909話 織田秀信

「義父様、お元気そうで何よりです。いかがですか?異国の生活は?」


「父上様、もう少し、日本に帰ってきて下さい」


と、織田秀信と娘の彩華が出迎えてくれた。


「異国は魅力的な生活で楽しいがな。いろいろ話もしたいのだが、先ずは本題から言わせて貰う」


「え?」


「安土の町の造成を見たが、この地の一極集中は避けて欲しい」


「そのことでしたら、この秀忠お伺いいたします」


と、控えていた徳川秀忠が言う。


「国内政治を任せておいて今更口だしするのは悪いとは思うのだが、人口が密集する都市はデメリット・・・・・・欠点と言うのか悪い面が大きい。せっかく琵琶湖という水運で結ばれているのだから、六つの城を有効に活用して、近江全体を使った都市作りをするべきだと思うが?」


「そのことは、右大臣様からもご提案されましたが、人々はここに集まっております。人が集まれば物も集まり町は発展します。商業の発展は国の発展に繋がると思うのですが」


「勿論、良い面も多い。だが、災難から強い国家を目指すなら、一極集中都市は適していない。それは天正大地震でもわかっているはず」


「それは、他の城から物資を送れば問題ないかと」


「災難は地震だけとは限らない。人が集まれば疫病が流行る。家が密集すれば火災が起きればすぐに類焼して大火事となってしまう。そうなれば多くの犠牲が出る。それを避けた町作りをせねばならぬとは思うが?」


「そのように起きるかどうかわからぬ物に怯えていたら町作りは出来ませぬ」


と、徳川秀忠も一歩も引かずにいた。


それを織田信秀はずっと目を閉じ聞いていた。


「父上様、そろそろ秘密をお話になられてもよろしいのでは?」


と、彩華が突如として言う。


「彩華?知っていたのか?」


「母上様から聞いております。父上様の知識は陰陽の力で未来を鮮明に見ているからだと」


と、なるほど、茶々はそう言う上手く教育してくれたわけか。


「・・・・・・そうだ、未来の分岐した線の未来の一本を覗いた。その町はひしめく狭い場所に密集した都市。その都市は非常に災害に脆弱。そして、そこにすべての国の政庁を集めてしまったが為に一度混乱が起きると、指揮権すら執るのが危うくなる。すぐに国は乱れ崩壊する」


311の時、東京に大きな被害があったなら、日本の復興は危うかっただろう。


命令系統は破綻し、原発の制御も出来なくなり、東日本は住めない地になっていたかもしれない。


そのことはわかっているはずなのに、東京から首都機能を地方に分散しようとしなかった平成時代。


政治家の利権の主張で強い国作りが出来ないでいた。


そのような事は今の段階で避けねばならない。


その為、俺の領地の常陸は東日本の中心となる都市になるように整備し、首都は日本列島のほぼ真ん中の、この近江とした。


九州も、羽柴家が大都市を整備している。


補完しあえるように整備している。


だからといってこの安土が人工密集都市になってはいけない。


「秀信殿、決断をいたして下さい。このままでは間違いなく、災害に弱い都市が出来ますぞ」


と、言うと目を開き、


「織田家の軍師は黒坂常陸守真琴であると父上様、そして御祖父様からの命。安土の町作り見直させていただきます」


と、決断を下すと、徳川秀忠は落胆していた。

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