第891話 神秘の羽衣
それは突然だった。
運が良い。
北極圏だろうと必ず毎日見られるものではないと聞いていた。
しかし、今、頭上には空中に光のカーテンが大きく大きく、そして神秘的に揺らめいている。
それに言葉では表現できない感動に包まれている、みんな。
寒さに堪えながら、眉毛に霜をはりながら、鼻水を凍らせながら、上を見て目を大きく見開いていた。
オーロラ。
その現象を言葉で説明できるほどの力を持っていないのがくやまられる。
大抵のことに驚きを見せない織田信長でさえ凝視しているのだから、その感動が伝わって欲しい。
・・・・・・
「北極の空 神秘の羽衣 輝いて」
と、一句詠むと、
「真琴様、これはいかなる言葉を紡いでも表現できる物ではありません。本当に美しい。人間が作る造形物をすべて否定するかの如く」
と、茶々が見上げて言う。
「姉上様、私、これ程、真琴様と一緒にいて良かったと思った日はないでしょう。いや、最早これを見るが為に私は一緒になったのかもしれません」
お初がなにやら哲学的になっていた。
「お初、私も一人、常陸の国で孤軍奮闘して辛い時期もありましたが、この天の布が拭って消し去っているかのようです」
う~なんか耳の痛いことを茶々が言い出したぞ。
「みんな、マコといて日本で見られない物を見せてくれてるのに、そんなこと言っちゃ駄目だよ」
と、お江は俺の方を持ってくれた。
お江は優しいのぉ。
「ごちゃごちゃ五月蠅い。このように美しい物を見たときは静かに酒を飲むものじゃ。持って来させよ」
と、珍しくあまり飲まない織田信長が自らお酒を所望すると、熱燗が運ばれてきた。
・・・・・・熱燗飲みながらオーロラ?
ん~オーロラってなんかもっとオシャンティーなお酒を飲みながら見たい気がするが。
だが、その熱燗のおかげで、寒さを忘れ、しばらく見ていることが出来た。
後に、オーロラで酒を飲む風習が、大日本合藩帝国に定着するとは、俺は知るはずもなかった。
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