第876話 前田利家の死
「常陸、未来でも人は死ぬのか?」
と、前田利家の死去の知らせを聞いて織田信長はドイツの方角の空を見つめて静かに言った。
「信長様、未来でも人は死にます。俺のいた時代には万物すべての生き物は遺伝子と言う設計図で出来ていることがわかっています。それを改造すれば不老不死も夢ではないのですが・・・・・・」
「そうであたな、倫理や宗教観から、その様な事を禁忌としているのだったな」
「はい、俺はその技術を見つけて人間が手にしたとき、それは神の世界ではないと思っているので率先して研究して人間に応用すべきだとは思っていますけどね」
「だが、この時代では不可能なのであろう?佳代の知識を使っても」
「はい、ありとあらゆる危機、薬品、その下準備だけで我々の寿命が来てしまいます」
「そうか・・・・・・儂もあと何年生きられるかの~」
と、しみじみと言っていた。
世界の頂点に上り詰め欲しいものはすべて手に入れられる地位にいる織田信長。
その織田信長もやはり人間だ。
頂点まで上り詰めた者、願うは不老不死。
だが、それは叶えてあげることは到底出来ない。
「常陸、ドイツはこのまま前田利常に相続させる」
「はっ、問題なきかと」
前田利家が病気の床に着いてからは、前田利常がドイツ藩をまとめ、今回の乱も迅速に鎮めていた。
いささか若いが彼なら問題ないだろう。
起請文も前田利常の他、重臣達の連判で届いている。
家臣達にも認められたと言う事が想像できる。
俺は、弔問の使者に予備の愛刀の太刀の中から一振りを選び、さらに軍配を添えて利常に送った。
前田家をしっかりと束ねよと手紙を添えて。
織田信長は、愛用の茶器の中でも一二を争う茶碗を前田松に送り、「又左衛門利家、十二分の働きであった。休め」と、短い手紙を添えていた。
その短い言葉にすべての感謝が込められていたのだろう。
この日、いつもは年齢に似合わず凜々しい織田信長であったが、少々老けて小さく見えていた。
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