第837話 毒

「大変です。琴彦様が御倒れになりました」


執務をしている俺に知らせる家臣は、額から汗を拭きだしながら真っ青な凝相だった。


「すぐ行く、小滝にすぐに知らせて、それと欧州イバラキ島に電信、佳代ちゃんを呼び出して」


と、指示を与え琴彦が運ばれた部屋へ行くとベッドの上で苦しんでいる琴彦。


すぐに、小滝が様子を見て、


「毒の可能性があります。油を飲ませて吐かせます。みんな、急いで」


と、小滝が医術を教えている生徒達と共に、処置に入った。


執務室から来た茶々もうろたえることなく、それを手伝っていた。


俺はそれを任せて外に出ると、お江が


「マコ~、ごめんなさい。気がつかなかった。琴彦の近習にくノ一も配置していたけど、琴彦は一緒に働く民達のご飯も気にせず食べちゃうから」


「うん、仕方ないだろう。誰かが責めを取る必要はないからな」


「うん、それは厳しく言ってあるから大丈夫だと思う」


失態があればすぐに自害しようとする者もいるので念押しをした。


「それより、毒が盛られたと思うか?普通に食中毒か?」


「ん~それはわからない。直前に食べたのはミコちゃんの下女が作ったお菓子だったみたいだけど、同じ一個の大きいお菓子を切り分けてミコちゃんも一緒に口にしていたし」


「ミコの下女?」


「うん、あの子達、探っているけど、なんか不思議なんだよね、出身とかよくわからないし」


「まぁ、犯人と決めつけるのは良くない。今は、琴彦の回復を願おう」


と、考えていると佳代ちゃんがすぐに飛んできてくれた。


「真琴君の息子だもん絶対助けてあげるわよ。大丈夫。私、失敗しないから」


と、部屋に入っていった。


夕闇が沈んだ頃、部屋から出てきた佳代ちゃんは、


「小滝さんの処置が早かったから大事にはいたならいと思うわ。それより吐き出させた食べ物から推測してケーキみたいな物に毒が入れられていたみたい」


と、話しているとガシャンとおぼんを落とすミコが青ざめた顔で立っていた。


「ミコ・・・・・・」


「違う、私、やってない、そんなことやってない」


と、走って行く。


それをお江が追いかけていった。


俺は一度、窮地を脱して寝ている琴彦の顔を見て、お江を待つのに部屋に戻った。

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