第838話 毒2

「私はそんなことやってない、やってない、お江様信じて」


私は間違いなく疑われている。

絶対に私だと・・・・・・。

私は今までも、そう。

なにか物がなくなったり事件が起きれば私が取ったと言われ、流行病が起きれば私が厄災を招く魔女だと疑われ石を投げられた。

今度もきっと、そう。

私が疑われ、そしてあの噂高い燃えさかる炎に入れられる・・・・・・。

恐怖でしかなく、全身が震え涙が止まらない。


私を捕まえに来たお江様・・・・・・え?


「大丈夫、大丈夫だから」


と、私を強く抱きしめてくれた。


なにが起きているのかがわからない。


「みんな、ミコの事は疑ってないよ。マコ、そう言う悪気ってわかる人だから。マコが気に入っている人って、そういうのない人だから。ね。ただ、事情は聞かないとね」


と、ガタガタと震える私の体をお江様は強く抱きしめ、涙を手拭いで優しく拭いてくれた。


一時間ほどすると不思議に震えは止まり、常陸様が待つ部屋に行った。


「おぉ、良かった。早まって自害などしなくて良かった」


と、信じられない言葉が第一声だった。


「うん、心配だったからすぐに抱きしめたよ、マコ」


「でかした、お江」


と、常陸様はお江様の頭を撫でていた。


「ミコ、琴彦が食べたケーキは誰が切り分けた?」


「はい、私の付き人のヤマルと言う者ですが」


「そうか、ケーキなど一部分に毒を入れて、食べさせたい者の手に渡す切り分け方があるからな・・・・・・」


「え?私を疑っていないのですか?」


「はははははっ、ミコから感じる気は純粋な白だ。そのような者が姑息な毒殺などせぬよ。それに琴彦暗殺のメリットがない。琴彦を暗殺して騒ぎを起こさせるとロシア帝国との関係が悪化する者の企てだと思うが?」


私はその場にヘニャヘニャと腰砕けに座り込んでしまった。


「ミコの下女はロシア帝国から来たのか?」


「いえ、アナスタシア・リュリーク様が手配してくれた者です」


「アナスタシア・リュリーク・・・・・・ん~・・・・・・取り敢えずその下女を尋問する。お江」


「マコ~、それがね、突如消えちゃって・・・・・・」


「逃げたか?」


「うん、騒ぎで消えたみたい」


「そうか、取り敢えずイスタンブールの柳生宗矩に連絡、毒殺に注意とアナスタシア・リュリークの近辺を洗わせてくれ」


「うん、わかった」


と、お江様が出て行った。


「あっ、あの、お願いがあります。私なんかが申し出て良いのかとも思いますが、琴彦様の看護を私にさせてくれないでしょうか?」


「うむ、いいだろう。くれぐれも無理はするなよ」


と、意外な答えに驚くと、


「あ~疑っていないのか?だったな?疑うような者をうちの周りにはもともと置かないさ。今回の事はミコが気にすることではない。利用されてしまっただけ。良いな。この事で責任を感じて自害などは絶対に許さないからな、さぁ、一度休んで、琴彦の正室と代わりながら看護を頼むぞ」


私が疑われなかった・・・・・・。

こんなこと初めて・・・・・・。

こんなこと・・・・・・。

この信頼には全身全霊で返さねば。

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