第759話 誕生

 ミライア、アセナ、オルショリャは順調に子供を産んだ。


ミライアは、女の子。

アセナは、男の子。

オルショリャは、女の子。


佳代ちゃんだけが遅れていた。


俺が慌てふためいたところで何も変わらない。


俺はただ静かに祈り、母子ともに健康を願った。


・・・・・・。


「常陸様、佳代様、御出産、母子ともに健康に御座います」


と、松様が知らせてくれた。


それを聞くと涙が自然とこぼれでた。


「有り難う御座います。有り難う御座います」


と、神社の祭壇に頭を下げた。


以前、出産の時は慌てて駆け寄り転び泥だらけになったことが数回ある。


そんな事はもうしない。


城内の出産所となっている郭に向かい、入り口で石鹸で手を洗い、アルコール消毒をして入ると、左甚五郎作の見事なベットでスヤスヤと寝ている子供達を見る。


足には間違えないよう、名札が付いていたのも、なんとも平成的だ。


佳代ちゃんの知識だな。


襖を隔てた隣の部屋では、小豆粥を四人がベットの上で食べていた。


みんな、出産したばかりで顔色は流石に悪いものの、元気そうだった。


「みな、無事で何よりだ。子を産んでくれたことも喜ばしいが、皆が無事、これが本当に嬉しい」


と、涙を流すと茶々が懐紙で拭きながら、


「さあ、いつものように、子達にお名前を」


と、言った。


「名は考えてある。皆、それぞれ信仰している神もおるだろうが、俺の子として神道から付けさせて貰う」


と、言うと皆、


「黒坂家の子ですから」

「陰陽師の子ですから」

「お兄ちゃんの子ですから」

「私も鹿島神宮育ちだもんOKに決まっているじゃん」


と、同意を得られたので半紙に書いて用意していた名前を見せた。


「ミライアとの女子は、天穂日命

あめのほひのみこ

に、あやかり、『天穂

あめほ

』と名付ける。

アセナとの男の子は、熱田大神

あつたのおおかみ

に、あやかり『熱田

あつた

』と名付ける。

オルショリャとの女の子は、菊理媛神

くくりひめのかみ

に、あやかり『菊理

くくり

』と名付ける。

そして、佳代ちゃんの男の子は、神産巣日神

かみむすひかみ

に、あやかり『神産

かみむ

』と名付ける」


あらかじめ男女どちらでも使えそうな名を考え、そして、今回も神様に守られるよう神様の名前から幼名とした。


すると、いつもの決まり文句の如くお初が、


「本当に、名はまともな物を命名する感性があるのだから、その感性を芸術にも向けて欲しいわよね」


と、言うと、みんな疲れながらも大笑いとなった。

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