第748話 新調太刀

「邪魔するよ」


と、刀を任せてある店の暖簾をくぐる。


太刀は常陸藩お抱え刀鍛冶師が作る水戸刀、その太刀の拵えを作って貰っている。


今回なぜに新調かと言うと、上杉景勝から貰った山鳥毛一文字黒漆合口打刀をアガリアレプトの戦いで失ったからだ。

普段腰に差すには合口拵えは鍔が邪魔にならず、大変使いやすかった。

その為、その普段用にするための代わりの刀を新調した。


「へい、いらっしゃいまし、とっとっとっととととと、へい」


と、顔を見ればわかって貰える専属鍛冶師の棟梁は、察しているのか名前を呼ぶのを止め普通の客の対応をしてくれた。


「届けようと思っていましたのに」


「町の見回りもかねて散歩だ」


「散歩ですか、よい季節になりましたからね。ちょいと待っていておくんなまし」


と、奥に刀を取りに行った。


桐の箱に入った太刀を持ってくると蓋が開けられた。


「ご注文の品、御検めを」


箱から太刀を取り今、挿している太刀を代わりに置き、新調した太刀を腰に差した。


鍔がない分軽く、接触もない。


挿し心地良し。抜き心地良し。重心バランス良し。軽さ良し。


太刀を抜き挿ししては、出来映えを確認した。


「何の飾りもなくて、すみませんです」


と、黒漆塗りに金の蒔絵で抱沢瀉の家紋が裏表に合わせて6つ描かれているだけのシンプルな鞘。


萌美少女装飾でない事への謝罪だ。


「いや、普段用だからド派手だと目立つからこれくらいが良い」


「海風にさらされても痛みが早まらぬよう漆は厚くなんべんも塗っております」


「気を遣わせたな。なかなか良いできだ。支払は家に回してくれ」


と言うと、わかっていますと言う、ニヤリとした。


「これからは、刀は軽く短い物が好まれるようになるだろう。配下も、船の中では短刀だけだからな」


「へい、承知しました」


俺は周りの者に感づかれないよう、遠回しに「軍の刀は短刀になるぞ」と伝え、箱に太刀を戻し風呂敷に包んで貰い店を出た。


リボルバー式拳銃も所持するが、やはり刀は良い。


刀は日本人の魂として残り続けて欲しい。


サラリーマン戦士ではなく、サラリーマン剣客になる未来を願う。


スーツ姿で帯刀するサラリーマン、学ランで帯刀する男子学生、セーラー服で帯刀する女子高生。


そんな刀文化が廃れない未来になって欲しい。


そんなことを考えながら城に戻ると、


「一人でお出かけなんてずるう御座います。私も町を好き勝手に歩いてみたかったのに」


と、茶々にすねられてしまった。


「異国の町は案内するから」


と、機嫌を取った。

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