第747話 時代劇のお約束話回

 また、ヨーロッパに向かうため準備を始めた。


その一つは、発注していた刀を取りに行く。


無論、城に持ってこさせるなどたやすいことだが、茨城城下町をお忍びで散策してみたく自ら出向く。


春の木漏れ日の中、一人城を出た。と、言っても猿飛佐助と、その配下が少し離れた所で警護をしていた。


町は大きく賑わい、所々に植えられている桜の木の下では長椅子や蓙を持ち出し、囲碁や将棋、リバーシーをする老人などが見え、町の治安の良さを垣間見た。


頼んである刀の店までは凡そ一時間ほどの距離、30分ほど歩くと霞ヶ浦に流れ込む桜川沿いの土手を歩いていると、茶店が見えた。

春の暖かな日差しで喉が少々渇いたので、立ち寄ると、腰の曲がった老人と孫娘らしき若い娘が店を営んでいた。


「お茶と饅頭でも頼もうかな」


「おや、お侍様、旅のお方かね?この辺りは饅頭より、どら焼きが人気なのですがどうだっぺ?」


「どら焼き?」


「どら焼きを知らないとは珍しいお侍さん」


と、若い娘は笑っていた。


どら焼き・・・・・・むしろこの世界線での生みの親なのだがと、思いながらもどら焼きを頼むと、焼きたての湯気の立つどら焼きが二つと煎茶がお盆に乗せられ運ばれてきた。


熱々のどら焼き、皮はモチモチとして、あんこは甘さ控えめで美味しい。


「美味いぞ店主」


と、褒めると


「うちの孫娘が学校で習ってきたので御座います」


「おっ、常陸国営のあの学校か?」


「へい、あの学校のおかげで孫娘が身売りしなくて済みました。ありがてぇ~事だっぺ。黒坂の大殿様には足を向けて寝れねぇべよ」


と、言われるとなんともむずかゆくて仕方がなかった。


お茶を二杯目を頼み、しばしの休憩をしていると、


「おい、じじい、ここで商売するのは親分の許しを貰っているんだろうな」


と、五人ほどのやくざ者らしき荒くれ者。


少々黙ってみていると、孫娘が短刀を抜いて、


「ここは天下の往来。邪魔にならなければ御上は楽市楽座で許しております。やくざ者に払う金などありません。学校で習ったこの剣で成敗してくれます」


と、なんとも威勢の良い娘だった。


俺は刀好き。平成時代線の明治政府が発布した『廃刀令』が大嫌い。


その為、逆に町人にも帯刀を許しているくらいだ。


「おっ、野郎っていうのかい。かまわねぇ~見せしめだ、龍神組を舐めるとどうなるか見せてやる」


と、やくざ者も抜刀した。


「そこまでにしとけ」


と、俺は立ち上がると


「なんだ、てめぇ~わ」


と、言われてしまう。


「名を名乗っても良いが、名乗れば貴様達は打ち首になるぞ」


「ほざけ~」


と、一人が斬りかかってきたためスッとよけ鞘で横腹を打った。


すると、倒れ込むやくざ者。


「一気に斬りかかれ~」


と、まとめ役みたいな男が言うと同時に、周りは黒服の侍で取り囲まれた。


「大殿、このような酔狂おやめ下さい」


と、猿飛佐助。


「酔狂ではない。この者達を引っ捕らえよ」


と、言うとあっという間にやくざ者は首の後ろや、みぞおちに一撃をあてられ気絶した。


それを縄で縛り上げる家臣達。


一人が町奉行配下の与力を連れてくると、その与力は俺を見るなり地べたに土下座をした。


「大殿様、申し訳ないことで。町が大きくなりましてこのような者達が次から次へと出てきて、取り締まりしきれなくて、面目次第も御座いません。町から離れたこのような場所を狙っては所場代を取ろうとする者などが現れまして」


と、謝った。


「このような者どもが、俺は一番嫌いなのだ。真面目に働いた者から金を巻き上げようとする者など言語道断。この五人を打ち首として見せしめにせよ。又、龍神組なる物の全員は炭鉱で強制労働とする」


と、言うと一部始終を固まって見ていた茶屋の老人と孫娘。


「大殿様・・・・・・?」


「あっ、学校で一度だけ見たことある」


と、驚きの声を出した。


「俺だって町を歩いたりするぞ。そう驚くな」


と、言ってあげるが


「大殿様に自慢げに、どら焼きを出すなんて申し訳ねぇ」


と、老人が頭を下げた。


「店主、このような狼藉者は多いのか?」


「はい、御上の取り締まりの穴をかいくぐっては鼠のように湧いてくるんで」


と、言ったところで、やくざ者が目を覚まして


「おいおい、早くこの縄をほどきやがれ。こんな乱暴な取り締まりが許されるのか」


と、吠えた。


「えぇい、控え控え、このお方をどなたと心得る天下の副将軍、左大臣黒坂常陸守様なるぞ」


と、猿飛佐助が言う。

一瞬にして真っ青に顔色が変わるやくざ者。


うん、なんか子供の頃によくテレビで見ていた光景。


印籠、今日は持ってきてないなっと、少しクスッと一人笑ってしまった。


「この者達は、大殿に対しての狼藉と所場代捲き上げ未遂により打ち首獄門、与力どの後は任せた」


と、猿飛佐助は五人を与力に引き渡した。


「取り締まりが悪くて迷惑をかけたな」


と、お茶とどら焼き代、そして、迷惑料として小判一枚を置いて茶屋をあとにした。


警察機構の改革もせねばならないか。


信琴に頼まねば。

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