第743話 近江大津城とお市様と信海

 前田利常は一度金沢に帰り連れて行く家臣の選出と支度に取り掛かる。


俺は金沢港に戻るのを遠回りをして近江大津城に入った。


近江大津城下町は安土と京をつなぐ街道にあり、町は大きく賑わっていた。

そこに変わらず建つ城は、俺の城の中でも珍しくシンプルな日本の城。


萌はない。


息子の信海と茶々の母のお市様が暮らしている。


入城するとすぐに茶室に通された。


「お市様お久しぶりに御座います」


「母上様、お健やかで何よりです。信海もますます筋肉がついたようで武人として日々の稽古に励んでいるようで何よりです」


と、茶々と一緒にお市様に挨拶をすると、お市様が点ててくれたお茶を飲む。


「常陸様こそ益々の御活躍おめでたい事、私の娘三人とも嫁がせて正解でしたわ。今日は、お初とお江はいかがしました?」


「お江は常陸国で学校の仕事をお初は欧州イバラキ城で、その側室たちの事を頼んで来ました」


「また、御子ですか?益々おめでたい事」


と、笑ってくれた。


「母上様、こちらで御不自由な事など御座いませんか?」


と、母親を気遣って言う茶々


「不自由?あるはずもないですよ。浅井家の菩提を弔う寺も黒坂家の名の下に建てられたので、誰にもはばかる事なく御霊を弔えます。それに孫と暮らせるなど幸せな余生ですよ」


「その信海なのですが、出陣を命じたくお市様にはまた、近江大津城の留守をよろしく頼みたいのです」


「父上様、私はどちらに?」


「唐入りを始める」


「いよいよ、唐天竺の統一ですか?それは腕が鳴る大仕事」


「いや、今回は単純な征服ではないから難しい仕事になる。北のウラジオストクに最上義康が占領する。そして、信海は香港を占領する。だが、唐の大陸への侵略はしない。そこを拠点に清と明の対立に介入する。介入すると同時に民族単位で小さな国をいくつも作る。そして巨大な国が出来るのを阻止するのだ」


「父上様、そのような大仕事、難し過ぎます」


「あぁ、わかっている。何十年もかかる大戦略になるだろうが、唐を一つに纏めた国は日本の脅威になるのだ。織田信忠様も了承しておられる。資金なら我が領地の稼ぎを使えば問題ない。信琴にも回すように言っておく」


「わかりました。そこまで言うならこの信海の一生の仕事として励みます」


「家臣はいるのか?」


「はい、お祖母様がこちらにおいでなので、旧浅井、朝倉の家臣などが集まって来ておりますので大丈夫にございます。その者達を毎日鍛え上げていたので私が筋肉がついてしまいましたよ」


と、力こぶを作って見せた。


「では、家臣を引き連れ一度、常陸国へ行き船に慣れさせ出陣してくれ」


「はっ、畏まりました。ただ、一つよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「父上様の家臣に多い忍びを与力に頼めないでしょうか?」


俺の直臣の柳生宗矩は裏柳生の忍びを持ち、真田幸村は戸隠の忍びを持ち、前田慶次の家臣にも忍びは多い。今でも孫の代まで広がり家臣の大半は忍びか、凄腕の剣客だ。


「わかった。宗矩に手配させよう」


と、話の一区切りがつくとお市様が


「今宵は異国の話でも聞きながら皆で久々に食事をいたしましょう」


と、言うので近江大津城で一夜を過ごした。

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