第740話 唐入り戦略

「父上様、お出迎えにあがりました」


と、屋敷に来たのは娘の彩華だった。


彩華はお初との娘、若い頃のお初を彷彿とさせる姿に育っていた。


「お、ひさびさだな、皆息災か?」


と、聞くとお腹をさすりながら


「えぇ、お腹の子も」


と、


「え?確か二人目?」


「はい、嫡男の吉法師はやんちゃさかりで、こないだなど木から落ちて腕を折って大変でしたよ」


と、言う。


間違いなく織田信長の血を受け継いだのだろう。


安土城に登城すると、やはりと言うのか予見していたのか秘密の話をするのに昔っから使っている天主最上階に通された。


信忠はすでに待っており、軽い杓子定規の挨拶を済ませると、彩華が入れてくれた茶で喉を潤して話を始める。


「父上様はお元気で?」


「はい、心配ないくらい元気で毎日異国の文化を楽しんでおられますよ。一緒に帰るかと聞いたのですが、向こうのほうの楽しみのが多いみたいで、日本国は信忠様に任せると」


「父上様はそういうお方ですからね、それは良いのですが、今回は何用で?」


「造船所や戦車の製造を見て来たくて来たのですよ。それと、これからの事を信忠様と話に来た次第で」


「これからの事?」


「まず、皇帝を受け継ぐ頃合いを検討して頂きたい。皇帝は織田宗家世襲で」  


と、言うと信忠はニヤリとして、


「常陸様が次になられるのでは?」


「ははははは、それは遠慮します。自由に身動き出来なくなる。それに世襲で治世を安定させなければ当初の目的である平和な世を築くが、乱世に元に戻りかけない。俺を慕ってくれる大名は極々一部。その俺が皇帝を目指すなどありえません」


「冗談です」


と、真面目な顔に戻った。


「世襲は父上様と相談して決めましょう。その時は、常陸様には関白に就任していただきますので覚悟してくださいね」


「関白ですか?」


「いやですか?」


「いや、役職名が短くなりなと」


「だったら政治権力を持たせるようにした上で、太政大臣になっていただきましょう」


太政大臣?ニヤリとしてしまうと


「父上様が、常陸様には長い官位官職を与えると喜ぶって本当なんですね」


と、信忠は笑った。


長い長い、それこそ平然時代の名刺サイズに書ききれないくらい長い肩書き、舌を噛みそうな肩書きがあるのに憧れを持つちょっと変わった趣味がある。

趣味嗜好なのだから仕方がない。


「それより、さらに大切な事を始めます」


「なんです?」


「唐入りです」


「おっ、遂に唐天竺の進行ですか?軍備は整っております」


「いや、正確には政治介入です」


「政治介入?」


「現在、ヌルハチなる者が率いる清と明が戦っています。そこに政治介入をいたします」


歴史は大きく変わったが、ヌルハチは現れ大陸では内戦が激化している。

清国と明国を中心に群雄割拠になっている。


「どのように介入せいと?」


「唐を一つの国家に纏めると未来では、日本の脅威となります。そこで日本は介入して一つにまとめさせないように働きます。具体的には民族単位で細かな国を大日本合藩帝国が国として承認してしまい、同盟を結びます。もし、同盟国に攻め入る時は、うちの大軍が東西から挟み込むとして宣言いたします」


「なるほど、ヨーロッパは制覇した軍は最高の脅しになる。それで未来に出来る大国を作らないようにしてしまう訳ですね?」


「そういう事です。知っての通り、弱小民族保護を政策にしてきたのを唐でも始めるのです。それは信忠様の手でしていただければ皇帝就任も誰も文句はなくなります」


「ぬはははははははははは、そこまで考えているとわ」


「大陸での拠点は、こことここの二カ所、あとは侵略はいたしません」


と、地図を広げウラジオストクと香港を指差した。


「ウラジオストク占領軍総大将、最上義康。香港占領軍総大将、我が子の信海、いかがでしょうか?」


「そこまで考えているなら良いでしょう。それで進めます。海外戦略は常陸様の言う通りに」


今まで避けていた唐入りは、ヌルハチ台頭を待っていた。


内戦を利用して、中国大陸をバラバラの国にしてしまう。


未来の中華人民共和国を作らせない戦略は今始まる。 

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