第733話 酒田港城
「初めて来るな。酒田にはモールス信号は送ったか?」
と、家臣に聞くと
「酒田港城には、まだ未設置です」
と、言う。
酒田港城を目の前にして。
「浮上して、旗と馬印を掲げよ」
味方に撃沈されたら、たまったもんではない。
酒田港城には、それだけの軍艦を配置している。
爆雷の情報は幕府を通して報告しており各地の軍港・造船所では作っている。
最上川の河口に作られた酒田港城も、その一つだ。
羽州を治めている最上義康は、元々俺の家臣で海軍力の重要性を知っている。
そんな義康が潜水艦の警戒をしていないわけはなく、浮上すると大型の蒸気機関外輪式軍艦が三隻間近に迫っていた。
砲塔がこちらに向く。
撃たれるより早くうちの家紋の旗と馬印を掲げないと。
と、向けられた大砲から煙があがると、すぐ近くの水面に弾が落ち、水柱が上がった。
第二射がくるまえに旗が掲げられると、大砲は沈黙した。
「ふぅ~危ない危ない」
と、ため息を吐いて眺めていると一隻の小型の軍艦が近付いて来た。
「我は羽州探題最上義康が家臣、酒田港水軍奉行、酒田金太郎時康。貴殿の船は真に黒坂家の船か?」
と、大声で叫ぶと、うちの家臣が、
「いかにも、大殿様、黒坂常陸守様御本人が乗船しておる。港へ案内を頼む」
と、返事を返した。
「証拠を見せれたし」
と、言うので、俺自ら艦橋に立ち、
「俺が黒坂常陸守だ。義康の家臣なら見たことある者もおるだろう」
と、言うと
「御無礼、平に平に御容赦を。港はこちらでございます」
「警備御苦労。砲撃は先手必勝の事。こちらが身分を表さなかった不手際があったので、不問といたす。今の砲撃で誰かが腹を切るなど許さぬからな」
と、念押しをして酒田港に入港した。
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