第732話 ポキビ城視察その3

 翌朝、ポキビ城の陸側の視察に赴く。


ポキビ城の陸側は三重の深い空堀を持つ。


それは敵の侵入を拒む為の物と言うより、動物と人間の住む場所を分ける為の堀。


ポキビ城が動物園で言うと檻の中と言える作りだ。


堀に落ちた動物は食糧として捕らえるが、その他の干渉は必要最低限にし、樺太北部は自然動物保護区としている。

人間が住むには厳しい環境下をむやみに開発しない方針を守っている。


勿論、原住民族の居住制限はしてはいないので人間もいるが、その民たちは自然と共存の関係を構築している。


春の訪れを予感させる晴れの日差しの中、木で作られた可動橋を下ろして5人の精鋭家臣と、トゥルックとで原生林に入った。


「トゥルック、淋しい思いをさせてすまないな。どうだ、守琴も一人前になった、あとは任せて一緒に世界を見て回らないか?」


と、馬を並べて歩きながら言うと、トゥルックは首を横に振った。


「マコトサマ、私は淋しくなどありません。ありがたい話ですが、守琴もおりますし、一緒に育ち生活してきた仲間が大勢おります。なので、この地から離れる事は考えていません」


と、言うと背中の弓矢を静かに構え木の影で潜んでいた兎に矢を放ち仕留めた。


「今宵は兎汁です。私が作ります。マコトサマ、私は行けませんが、また来て下さい」


と、ニコリと笑った。


うちの嫁たち、性格良過ぎだろ!と、改めて思う。


「あぁ、必ず来るさ。必ずな」


トゥルックの手料理を堪能し、翌日。


守琴が会わせたい物がいると言うので、対面すると


「ピチョパと、もうします」


辿々しい日本語で挨拶をするアイヌの民族衣装に身を包んだ二十歳くらいの女性。


「ハハハハハッ、そうか、守琴も嫁だな?よろしく頼むぞ」


と、言うと守琴は面を食らったかのような顔をした。


「なぜにわかりました?」


「言われなくたってそのくらいわかるさ。大方、アイヌの民を嫁にしだいが許してくれるか?と、言いたかったのであろうが」


と、言うと横に座っていた茶々が


「守琴、父上様は民族などの違いなど一切気にしません。その、ような事など気にしているなら世界各地の嫁など存在しませんよ」


と、言いながら笑った。


俺もそれに頷くと、茶々は


「ピチョパ、黒坂家は、女も役目を持ち働きます。あなたは、アイヌとの新しい掛け橋になる事が出来ますか?」


と、言うとピチョパは、コクリと頷いた。


「黒坂家へようこそ、守琴、そしてトゥルックの補佐として頼むぞ」


と、俺は返した。


その晩、急遽、守琴とピチョパの仮祝言となった。


それを見届けた翌朝、俺は最上義康の領地である酒田の港を目指した。

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