第729話 缶詰め検食その2・新缶詰めの悲劇
「ほう、これはサンマの缶詰めか?なかなか美味いな。味噌味が良い。おっ、これは鯖か?良い良い。なかなか美味いな」
サンマ、鯖、鱈、鯨などの魚の缶詰めを検食していると、あることに気が付く。
「そう言えば、にしんの缶詰めはないのか?にしんは良く採れるのであろう?」
と、聞くと
「えぇ、取れすぎて加工が追い付かなくてちょっと失敗したみたいで、ある事はあるのですが」
と、氏琴。布にかけられた缶詰め、布を取ると・・・・・・?
ラベルの美少女がポッチャリおデブになっている。
そう、缶詰めが膨張している。
・・・・・・?
「どうも加熱処理忘れがあったみたいで、発酵しているみたいなんです。今、開けさせますね」
「にしん・・・・・・缶詰め・・・・・・発酵・・・・・・あれ?うわ、ちょっと待て」
と、止めるより先に缶切りは缶詰めの一穴を貫いた。
プシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
噴き出る液体と異臭。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!臭い臭い臭い臭い臭い!鼻がもげる」
鼻を懐紙で抑えるが役には立たない。
家臣達はすぐさま外に続く襖を開け放ち換気をする。
茶々は顔を真っ青にして今にも吐きそうな様子。
缶詰めを開けた家臣は短刀を抜き切腹しようとしている。
それを腰の鉄扇子を投げ右手に当て止めさせると俺の護衛の忍びが取り押さえた。
「このような事ぐらいで切腹などするな!うわ、臭い」
本当に臭い物は鼻を曲げるどころか目をしばしばにする。
パッと開いてはいられない。
缶詰めの失敗でシュールストレミングを作り出してしまったようだ。
「このような物、大殿様の前で開けてしまった事を詫び、どうか腹を切らせて下さい。大殿様への無礼、武士としての恥辱」
と、缶詰めを開けてしまった家臣が懇願する。
「命じたのは私ぞ、控えよ」
と、氏琴も止めた。
「その缶詰め、失敗と言えば失敗だけど、シュールストレミングと言う食べ物ではあるんだよ。北欧では発酵したにしん食べるし・・・・・・臭い。だから、恥辱などと言わないで・・・・・・臭い」
と、止める。
シュールストレミングは缶詰め爆弾のイメージが強すぎるが、北欧では発酵したにしん料理は缶詰めより先に存在する。
一般的に様々な物とパンに挟めて食べるらしいが。
「それでもこのような失態の責めは私が」
「ならば、命じる。毒味をせよ。それで謝罪とする。良いな?」
シュールストレミング一度食べてみたいとは思っていた。
今、目の前にあるが食べる勇気がなかなか出ない。
臭いから、食べて良いのか迷う。
「そのような事でよろしければ」
と、その家臣は残っていた蓋を開け、大きな切り身を口に入れた。
ウプッウプッ
と、今にも吐き戻しそうになりながらも、涙目でゴクリと飲み込み
「臭く酸味が強くしょっぱい以外、味はわかりません」
と、口から異臭を放ちながら言う。
「毒ではないようだな。氏琴、パンと煮たジャガイモと玉ねぎなど薬味になりそうな物を用意してくれ」
「父上様、召し上がるのですか?」
「あぁ、食べてみたい」
「真琴様、失礼します」
と、茶々は真っ青にして退席した。
急いで運ばれてくる薬味になりそうな葉物野菜は、城内のミニハウス栽培場から運ばれてきた。
パンはすぐには用意出来ないので、蕎麦をクレープ状にした物が作られ運ばれてきた。
「父上様、本当に食べるのですか?」
「一度食べてみたいと思っていた。良い機会だ、食べる」
そう言うと料理人が蕎麦クレープに薬味になる野菜などの上にシュールストレミングを乗せクルクルと巻いた。
それは家臣一同にも配られ、
「いざ」
とのかけ声と共に口に運ばれた。
すると、皆、眉間にしわを寄せ、沈黙・・・・・・。
がむしゃらに食べ飲み込む。
氏琴もそれを見て食べると日本酒で流し込んでいた。
俺も食べると、臭いにはもう慣れて来ていたが、鼻から突き抜ける刺激臭。
口鼻からだけでなく、目や耳まで臭くなったのではないか?と、言う感覚に包まれた。
味は酸味しか感じる暇はない。
とにかく、臭く酸っぱく塩辛く味わえるような物ではない。
ふな寿司をパワーアップさせたような物になっている。
ふな寿司がまともに思えてしまうのが不思議なくらいだ。
「ぬおう~」
と、吠えながら完食する。
「うん、もういらないかな。ちゃんと加熱処理して蓋するように」
と、感想を言って臭いを押し流そうと日本酒を一気にグビグビと飲み干した。
しばらく、口から漏れ出る臭いは続いて茶々が近寄ろうとはしなかった。
大広間は、毎日毎日雑巾掛けされ、香を焚き、換気を繰り返して臭いはようやく消えた。
恐るべしシュールストレミング。
ん?これ、非致死傷の兵器に良くないか?などと考えるが、自爆が恐いからやめておこう。
戦艦の中、ましてや潜水艦の中で爆発したら大惨事だ。
ん?密室で使えば安全な自白剤になるかも。自白が吐かないで違う液状が吐かれそうな気もするが。
想像すると恐ろしい。
そんなシュールストレミング、家臣の中には、その臭いと酸味を気に入った者がおり、少量生産が開始となった。
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