第667話 伊達政宗と能

 伊達政宗はグアヤキル城に手紙が届くとすぐに支度をして韋駄天の伊達の別名にふさわしく、すぐにジブラルタルに来てくれた。


本当に心強い仲間だ。


伊達政宗は家臣ではなく、俺の息子の須佐の嫁は伊達政宗の娘、五郎八なので親族。


関係性は深い。


「常陸様が必要としていただくなら地球の裏側でもすぐに馳せ参じます」


「はははははっ、ありがとう」


「で、能を始められるのですか?私が直々に教えたく」


「あっ、俺は演者にはならないよ。能を民衆に見せてあげようかと思って」


俺はお茶も飲むのは好きだが自分では点てない。


能や歌舞伎なども見るのは好きだが演じようとは思わない。


「なるほど、民に楽しみを与えるというのは、またよろしいお考えかと思います」


「でしょ。静と動の演目で静を能で表現して欲しいだよ。俺は能は詳しくはないから任せて良いかな?」


「異国人が理解できる演目ですか、考えてみます」


伊達政宗は俺の知る時代線での晩年は年間三万石、約10億円をつぎ込んでいるほど能にはまる。


能に関して言えばこれほど適任な者は俺の知り合いではいないだろう。


伊達政宗の能に巨額にお金をつぎ込むのは江戸幕府から謀反の疑いを掛けられないようにするためと言う側面もあるのだろうが。


「常陸様、能楽堂の建設は良いでしょうか?」


「あっ、そうだね。ごめん詳しくはないんだけど足音が響くようにとか作るんだよね?」


「はい、能は足音の表現もまた重要ですから」


「建設は任せるよ。うちの大工衆に指示して良いから。ただ、出来れば移動がしやすい組み立て式に出来ないかな?」


「組み立て式ですか?」


「うん、上演する一団をいろいろな都市に移動させながら上演したい。多くの人に見てもらえる機会を作りたいから」


「なるほど、考えてみます」


俺がイメージしているのはコンサートのように大がかりな舞台装置装飾を運び、各地でくみ上げて上演して巡る物を想定している。


パネル工法の応用で出来なくはないはずだ。


伊達政宗はさっそく仕事を始めてくれた。


数日が経過して突如、伊達政宗は怒って登城してきた。


「常陸様、オスマン帝国の皇帝と兄弟杯とはどういうことですか?この伊達政宗を差し置いてそのような事。私は悔しくて悔しくて妬ましくて・・・・・・あ~このままならオスマン帝国に攻め入りたい」


「おいおいおいおいおい、物騒なこと言うな。オスマン帝国とは良い関係を未来永劫作りたいんだから」


「だったら、私とも兄弟杯出来ますよね?私が弟で良いので」


と、言う伊達政宗は準備万端『塩竃御神水仕立て御祓い済み御神酒・伊達』と書かれた酒瓶と杯二枚を懐から取り出した。


うん、そんなひねくれた言い回しをしなくても伊達政宗なら兄弟杯を喜んでするのに、これが伊達のへそ曲がりか?


俺流兄弟杯をした。


「武甕槌神の大神に誓い伊達政宗を未来永劫、弟とする」


「塩竃大明神に誓い黒坂真琴を未来永劫、兄とする」


注がれた日本酒を飲み干しその杯を交換する。


伊達政宗の希望で政宗が弟という兄弟杯となった。


兄弟杯の流儀として『黒坂流兄弟杯の儀』が、この後、確立したのは言う迄も無いだろう。

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