第644話 冷夏忍び寄る寒冷化

 1609年夏


涼しく天候の安定しない夏が訪れていた。


本来、欧州イバラキ島は地中海性気候で暖かな土地なのだが、夏でも長袖が必要な日が多くある年となっていた。


そんな中、欧州イバラキ島を完全な支配下にしようと陸地の住民達を説得に回っている桃信から早馬が来る。


「父上様、天候不順で作物が採れずに住民達は困っています。食料を分けてあげたいのでご支援ください」


と、言う内容だった。


あのテムズ川も全面凍結したマウンダー極小期は静かに近づいているのだと察する。


「政道、食料の備蓄はあるのか?」


城の改修に力を入れている真田幸村の代わりに、秘書として働いている伊達政道に聞くと、


「豊富とは言えませんが、問題はない備蓄量があります。ただ、進軍するとなれば心許ない量でして、今、インカ、マヤ、アスティカ、マダガスカル、オーストラリア、日本本国のほうに手配はいたしてはおりますが」


俺の農政改革の技術を取り入れている地域は、多少の天候不順でも左右されない。


一つの作物に集中しないようにしているのと、寒さに強く枯れた大地でも育つ作物を奨励しているからだ。


「そうか・・・・・・なら、進軍はしばらく取りやめる。桃信に島民に困らぬくらいの食料を分けてあげるように手配してくれ」


宗教対立の芽を摘み取る戦いは勿論大切な物だが、今、島民を見捨てるようなまねをしてしまえば、本末転倒になりかねない。


すべての者が衣食住に困らぬ政策「富国強国」を掲げている俺としては、欧州イバラキ島は最早、日本なのだからその島民も日本人、「富国強国」の庇護下なのだと見せねばならない。


「はっ、すぐに手配致します」


伊達政道は蔵の保存食を桃信に送った。


食料を分け与えることで島民は少しずつ心を開きだし、俺の統治を認めると桃信を通して村長の連名書が届いた。


これで完全に欧州イバラキ島の統一となった。

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