第611話 黒坂真琴とバードリ・エルジェーベト
「呼び出されて来るとはなかなか殊勝な心がけですね」
俺は、とある料理を桜子に作らせ、バードリ・エルジェーベトを茶室に呼び出した。
「あら、良い匂いがするわね。美味しそうな匂い」
「あなたの好きな物ですよ」
時を遡ること一週間前、深夜の町でゴスロリ覆面と出くわした次の日、
学校を軽く覗くと農作業指導をしていた前田利家の妻、松様がお怒りモードだった。
「せっかく実ったのにみんななくなってしまったは、しかも、真っ赤に熟した実ばかり」
・・・・・・。
パズルのピースが組み上がった。
俺はバードリ・エルジェーベトに嫌な気配は感じない。
だが、鉄の処女・アイアンメイデンの噂。
そして、真っ赤な風呂・・・・・・。
しかし、血生臭さがない・・・・・・。
青臭いとの報告の真っ赤な風呂・・・・・・。
そして、学校の農園の果実が消えた。
事件は会議室で起きているんじゃない、畑で起きているんだ。
・・・・・・。
現在茶室では、農園で残っていた果実を使って煮込み料理を作っている。
疑いがかけられているはずのバードリ・エルジェーベトは殊勝にも呼び出しに応じた。
事件以降ジブラルタル城下町の出入りには厳しく監視を付けているので、逃亡が出来ないからだろう。
そんなバードリ・エルジェーベトに煮込み料理を出す。
炊きたてのご飯にかけて。
「ま~まるで血で煮込んだような料理、美味しそうだわ。なんて料理かしら」
「たっぷりトマトのハヤシライスですよ。好きなんでしょ?トマト」
「・・・・・・私を疑っていたんじゃないの?殺人鬼、血抜きの悪魔として」
「ん~あなたからそんな気配は最初っから感じませんでしたよ。それに鼻は良い方でしてね。血臭さもない。まあ、冷める前に食べながら」
と、バードリ・エルジェーベトにハヤシライスを勧めると、バードリ・エルジェーベトは一口食べて涙を流し出していた。
「わ、わたし、また疑われたと思ったのに・・・・・・思ったのに・・・・・・地獄の業火に入れられるんじゃないかと思っていたのに・・・・・・うっぅぅぅぅぅぅ」
史実は知らない。
知らないが、この世界線ではバードリ・エルジェーベトはサイコパス殺人鬼・血の伯爵夫人ではない。
ハプスブルク家に陥れられ領地を取り上げられ、魔女裁判の被害者になるところだった者なのだ。
「血抜き悪魔に心当たりは?」
「ないわ、ないからこそ、ああやって夜中に出たのよ」
「はははっ、やはりあなたでしたか?」
「殺されるかと思ったわよ」
「でしょうね。大人しく投降しなければ斬るつもりでしたから」
「黒坂常陸守真琴の名は剣術使いとしても有名よ。出くわしたとき私のこの名器と言われる穴がキュッとしまったくらいに」
うん、この状況でも下ネタ言うのね・・・・・・。
「生徒達とは同性愛ですね?」
「そうよ、悪い?羽柴秀吉はパナマ運河建設に行ってしまったし、可愛いがっていた生徒達には慕ってくれる子達もいたし」
羽柴秀吉には織田信長経由でパナマ運河建設の工事を頼んだ。
勿論、完成は期待していないが、少しずつ運河を掘り進める大事業。
そんな土木建設工事を任せられる適任者は羽柴秀吉。
バードリ・エルジェーベトは真面目にも学校の為にジブラルタルに残った。
厳しい指導だったが、それでも慕う生徒は出てくる。
そして、寂しさを紛らわせるためにその慕った生徒と・・・・・・。
「両者合意の元なら俺は良いと思いますよ。同性だろうと年の差だろうと肌の色の違いだろうとそんなことは好きという感情を押し殺す理由はない。ただ、相手が嫌がらない同じ気持ちならどんな形の愛だってあって良いと思います」
「黒坂常陸様が相手してくださっても良いのですよ」
と、泣き笑いながら言う。
うん、下ネタしまっていて欲しい。
「嫌です。年上は好みではないので。それより、トマト盗みましたね」
「はい、トマトをプレス機で潰してお風呂にするには、いっぱい必要だったんだもの」
アイアンメイデンではなく、トマトのプレス機を作るバードリ・エルジェーベトってどんだけだよ。
「解任?」
「解任はしませんよ。給与から引かせていただきます。それと、ももうしばらく怪しまれていてください」
「血抜き悪魔を演じ続けよと?」
「そう言うこと、単純なサイコパス事件ではない気がしますから」
「そうね。私が陥れられたように黒坂常陸の名が陥れられるかもよ」
「でしょうね。狙いは間違いなく俺ですよ。その位はわかっています。そして、俺はそれを利用する」
「ふふふっ、鬼才と言われるだけはあるわね。興奮して濡れて来ちゃった」
「お漏らしならトイレ行ってください」
「違うわよ」
と、俺を誘惑しているつもりだろうが俺が受け流すと怒っていた。
バードリ・エルジェーベトはハヤシライスを堪能して帰宅した。
さてはて、血抜きの悪魔はどう出るか・・・・・・。
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