第534話 織田信忠

「常陸殿の薬のおかげで治りました」


そう言って茶を点てている織田信忠。


正露丸を飲ませて一週間で織田信忠は無事に回復して、安土城の茶室に呼ばれた。


織田信忠が点てたお茶を飲む。


「ん~・・・・・・」


「ははははは、正直ですね。父上様のような茶は点てられません」


と、信忠は俺の反応に敏感だった。


どうも料理や、お茶などには正直で世辞は言えない。


「信長様のお茶が格別に美味いだけですよ」


「わかっております。いや~それにしても、あの臭い薬は未来の知識で?」


織田信忠は俺が未来人であることを知る数少ない人物の一人だ。


「薬にはそうそう詳しくはなく、俺の知識が活用して作れる薬は少ないのですが、あれは漢方近く、植物を原料にするから覚えていただけで」


正露丸、たまたま見ていたテレビ番組で関西方面で町中に作る工場があり、周りが正露丸臭いと言うのを見ていたから印象に残っていた。


「そうですか、未来の知識で薬がいろいろ作れれば良いのですが」


「未来の薬は様々な薬品を組み合わせて作りますから、動植物由来の漢方は少々廃れるんですよ」


「それでは専門的に学んだ者でないとなかなか作れませんね」


「はい、俺は薬を学ぶような事はなかったので」


医学系の大学に進むつもりもなかったので知識はほとんどないに等しい。


健康テレビ番組で見た知識ぐらいでしかない。


「常陸殿にはなにか、お礼を致さねば」


「必要ないですよ。俺の娘である彩華の嫁ぎ先の父親を助けるのに理由は必要ですか?それに俺の妻は信長様の幼女になった茶々ですよ。信忠様とは義兄弟ではないですか?」


「しかし、常陸殿はそれでなくても父上様の野望を満たすのに大きく貢献している方、様々な物を開発され国を大きく富ませています。そんな常陸殿の領地が常陸・下総だけでは」


「ははははは、形はどうであれオーストラリアなど実質的に領地に等しいので本当に良いのです」


「しかし、それでは・・・・・・」


「ならば、欲しい城が一つだけありますが」


「おぉ、それはどこですか?」


「大津城です。蒲生氏郷はイスパニアに渡ったので今は城主が定まっていないはず。そこに俺の息子を入れていただき分家として欲しいのです」


黒坂家を後世まで残すためには常陸から離れた土地に、分家として黒坂家を分ける必要性がある。


オーストラリアか南アメリカに分家として息子の一人を置くつもりではいるが、日本国内にも欲しい。


考えていたのは、俺の後を継いぐ龍之介が茨城城に入った後に下総に誰か入れようと考えていた。


だが、隣通しでの分家では心許ない。


ひとたび戦乱となれば、どうなるかわからないからだ。


離れた土地、城に分家が欲しい。


そうなると馴染みある城の方が領民も受け入れやすいだろう。


「大津城、昔、常陸殿が初めて城持ちになられたときの城ですか?」


「はい、あそこなら、俺の息子なら領民受けも良いかと」


「わかりました。良いでしょう。ただし、一つだけ条件が」


「何ですか?」


「茶々、お初、お江の子と言う条件で」


条件に合う息子はいる。


お江の子で四男の経津丸と、茶々との間では次男になる七男の猿田だ。


「良いでしょう。お江の子がちょうど良い年頃」


安土城に近い城に血族である者と指名するのは理解できる。


大津城とその周辺の領地五万石それが、正露丸の御代となった。


まあ、それだけが理由ではないのは先に信忠が言ったとおりだが。


「信忠様、また、俺は海に出ます」


「そうですか、私もいずれは行きたい物です」


「秀信殿が成長されて任せられるようになったら是非案内致しますよ」


「その時は是非に」


「はい、お約束致します」


「父上様の事、くれぐれもお願い致します」


織田信長は任せられなくても勝手に満喫しているが、約束しておこう。


「はい」


この後、秀信と彩華も交えて夕飯をいただいた。


秀信はなにかと異国のことを聞いてくるので語ってあげると、目をぎらつかせ聞き入っていた。


やはり織田信長の孫だな。


夜が更けようとする頃、ようやく解放されて屋敷に戻ろうとすると、


「必ず、また話しを聞かせてください。義父様」


そう言って秀信は見送ってくれた。


三法師だったころ、カレーを食べさせた日を思い出す。


あの子供がここまで大きく育ち、俺の娘と結婚しようなどとは思いも寄らないこと。


このまま、織田家を日本国を任せられるような人物に育って欲しい。


そう願いながら月夜を千鳥足で帰宅した。




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