第535話 大津城改築?萌え門?
「また、ふざけた装飾しようなどと考えているのではないでしょうね?」
と、お初が大津城の城門を潜るときに言ってきた。
息子への引き渡しは少し先になるため、先に現状での引き渡しと視察を兼ねてだ。
織田信忠が俺が海外に行く前に引き渡したいと、気を使ってくれて十日ほどで引き渡しとなった。
「ははははは、今のところは考えていないさ」
そう、今のところは。
大津城は琵琶湖を囲む六カ所の城の一つで重要な城。
その為、俺が常陸国に移った後は、蒲生氏郷が城主を務めていた。
元々は俺が築城した城。
ただし、左甚五郎と出会う前のため『萌え装飾』が、ない。
「しかし、懐かしいですね」
と、お初が言う。
「そうだな。初めて俺が持った城だからまた支配下になるとは嬉しいことだよ」
「なぜに大津にしたのですか?常陸に近い領地をいただいた方が良かったのでは?」
「それは、分家として完全に別の家系を築く黒坂家が欲しいのと、この常陸国から離れた所に黒坂家を置きたかった。もし、常陸国になにか有ったときに支えてくれる予備が欲しい」
俺は首都を安土とし、副首都を地方に置く政策をとっている。
その副首都の一つとして、茨城城は織田信長公認だ。
なぜに公認かと言うと、信長の御殿が茨城城にあるからだ。
そこに信長は宿泊していた時期もある。
俺の日本国の西の拠点が欲しかった。
だからこそ、領地を欲しいと言うより、この大津が欲しかったのだ。
正露丸のおかげというのは若干、棚からぼた餅感だが。
「ここなら、お市様も喜ぶのでは?」
「確かに、母上様は喜びますね。蒲生殿が持つより、娘婿の真琴様所有の方が気兼ねがないでしょうから」
「菩提を弔うのに近江の方が良かろう」
「はい、父上様の・・・・・・」
お初は言葉を濁した。
浅井長政は織田信長にとっては謀反人も同然なので俺に遠慮しているように見える。
「お初、死人は死ねば平等の魂。遠慮はいらぬぞ」
「ありがとうございます」
「ここは、お江との子の経津丸を入れる予定だ。浅井長政殿にとっては孫になる。対岸だが、弔いをするのには悪くはないであろう?」
「はい。真琴様はそれも考えてここに?」
「さあ、どうかな?」
と、とぼけて言うとお初は横腹を軽く小突いてきた。
「ありがとう」
と、小さく再び言っていた。
男勝りなお初だが実は、可愛い。
「しかし、劣化は進んでいるな。少々手直しは必要だ。耐震も不十分だし」
「左甚五郎を呼ぶのですね?」
「いや、左甚五郎を連れて行くから、その配下に任せよう。もう十分に育っているからな」
「はい、国一番の大工集団だと言われるくらいですから」
うちはなにかと築城が続いた。
しかも、俺の未来知識を取り入れた工法と伝統的工法を組み合わせて。
「萌えは許しませんよ。・・・・・・門だけにしてくださいね」
意外なお初の言葉に俺が豆鉄砲を食らった鳩のような顔をすると、お初はニコニコと笑い返した。
萌え門。
なににしようかな。
下書きならいっぱいある。
何をモチーフにするかが悩みどころだ。
なにに。
茨城城に帰る船の中、考えた。
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