第532話 安土城登城

 1605年初夏


俺は再び海外に出る。


やり残していることやりたいこと、見たい物など多くあるからだ。


その前に一度、安土城に登城して織田信忠に挨拶に出向いた。


海路で大阪に入って安土に馬で入るので常陸からなら三日で着く。


城に登城すると、


「父上様、お久しぶりにございます。お健やかなご様子で」


と、俺の娘、彩華が出迎えてくれた。


織田信長の孫の織田左近衛中将秀信に嫁いだ娘。


「お~彩華、父は元気だぞ。彩華こそどうだ?近江の水は有っているか?」


「はい、私は大丈夫なのですが、義父様が病でして」


彩華にとっての義父とは、織田信長の嫡男である信忠だ。


「信忠様が病?」


「はい、食あたりのようで家康殿が調合した薬を飲んでいますが、良くはならなく」


と、暗い顔を見せた。


食あたり・・・・・・。


「すぐに会おう、良い薬を持っているぞ」


俺は信忠の寝ている寝所に行くと信忠は腹を押さえて苦しがり、枕元には秀信が心配そうにしていた。


隣の部屋では徳川家康が薬師と一緒に煎じ薬を作っている。


「信忠様、なにか食べましたか?」


と、脂汗を流しながら痛みをこらえながら、


「常陸殿・・・・・・鯖の生を少々」


「もしかしたら効くかもしれない薬を持っています。臭いですが我慢して飲んでください」


と、差し出す。


そう正露丸だ。


彩華にと思い持ってきていた薬。


手に取り出すと部屋中臭くなる。


みんな、その黒い玉を凝視する。


「毒などではございません。彩華」


俺は彩華に一粒出す。


俺も飲んでみせるが説得力を増すために娘である彩華にも飲ませる。


鼻を押さえながら飲んでみせる彩華。


「父上、臭い」


と、涙をにじませていた。


「わかりました。飲みましょう。常陸殿を信じて」


3粒を飲ませる。


30分ほどすると、信忠の脂汗は止まっていた。


「痛みが軽くなってきました」


「凄い、こんな薬、儂は見たことがない」


と、徳川家康も驚いている様子。


「虫、魚に寄生する虫が原因なら、この薬をしばらく飲みながら虫下しの漢方も合わせて飲み、虫を出すように致せば治るかと。専門的な漢方の治療は家康殿のがお詳しいと思いますでお任せ致しますが」


「はい、虫下しなら有ります」


俺は一度退室して後は任せる。


「義父様、ありがとうございます」


と、秀信が言ってきた。


「将軍家になにか起きれば折角まとまっている国が乱れるので、屋敷にしばらく滞在するのでなにかあればすぐに言ってください」


俺は安土城内の屋敷にしばらく滞在することとした。


万が一のために動きやすいように。

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