第530話 真琴様はなのりたい

 鹿島港に来たついでに鹿島神宮を参拝する。


鹿島神宮は鹿島城と隣接しており、元々監視する役人が常駐しているため護衛は佐助だけだ。


佐助もそんな俺から少し離れて知らない人のように護衛していた。


お初とお忍びで参拝し繁栄している神宮前通りの茶店に立ち寄り一服をしていると、


「やいやいやいやい、てめーは誰の許しを得てここで商売しているんだ」


と、ヤクザ組風の三人が通りの反対側のお面や竹とんぼなど子供の玩具を売る出店のオヤジにいちゃもんをつけていた。


お初が立ち上がると、すぐにそのやくざ風の三人組に詰め寄り、


「ここは常陸守支配下、小さな移動店舗での販売は奨励されているはずですが」


と、言っている。


俺も楽市楽座に近い政策をとっている。


特に行商人などの店を持たない者は、税を課していない。


店舗を持つ店は人通り、店の大きさなどから固定資産税を課した上で、販売に応じた税を取る仕組みを組み上げている最中なのだ。


「なんだい、ねえちゃん、俺達と遊ぼうって言うのかい」


と、一人の男が手を掴むと、


「無礼者」


と、お初は言って手をくるりと捻り返した。


俺がなぜに傍観しているかは、単純な理由だ。


お初は強い。


俺との鍛錬に加え、柳生新陰流無刀取りもマスターしているくらいに。


お初は女剣士と言って良いレベル。


「いてててててて、ふざけたまねしやがって、おいてめーら、やっちまえ」


と、刀を抜いた。


俺は帯刀を制限する法度は出していない。


出すつもりもない。


日本刀は日本人の魂だ。


廃刀令が大嫌い。


平成でもサラリーマンがスーツに帯刀、学生がセーラー服に帯刀してるのが当たり前になる時代を望んでいるくらいだからだ。


そんな、刀を抜いた三人はあっという間に地べたに這いつくばっていた。


そう、あっという間。


お初が刀を抜くと、三人は足の腱を斬られていた。


騒ぎがでかくなり出すと、やくざの仲間が10人ほど集まり囲んできた。


流石に俺も立ち上がる。


「貴様等、いい加減にしろ。ここは俺が崇めている神社、貴様等のような者が利権をむさぼるような所ではない」


一人、中年の貫禄ある男が、


「いいか、ここは俺達、龍神組の縄張りだ。ここでは俺達が仕切るんだ」


「ははははは、お前は馬鹿か?」


「ああ?なんなんだてめーらよ」


「俺の名を聞くか?俺が名乗らねばただの喧嘩、名乗れば大罪人になるがいいな?」


「けっ、どうせふざけた名前なんだろう」


「ああ、ふざけた名前だな。平朝臣右大臣黒坂常陸守真琴などという」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


集まりだしていた遠巻きの野次馬も静まり出す。


「ば、ば、馬鹿なこと言うんでねぇ~こんな所に来るもんか」


顔色が興奮して赤くなり出したやくざの親分。


「てめーら、こいつをやっちまえ」


子分達が刀を抜いた。


「俺は名乗ったからな。名乗った以上、俺に対して刀を向けたならそれは反逆者」


そう、名乗りを上げた俺、身分を明かした俺に向かって刀を向けるという事は、大逆罪。


「うっうるせー、右大臣様の名前をかたる者を俺達が成敗してやる」


「そうか、残念だな。なら、斬る」


と、俺が刀に手をかけたとき、すぐに様子をうかがっていた役人が、


「引っ捕らえよ。右府様にあだなす大罪の現行犯」


と、言って良い間を見て表れた。


「まっ、まさか、本物・・・・・・」


赤い顔が真っ青に変わる親分。


「おい、あの顔見たことあるぞ、領内巡察で声かけて貰ったことあるぞ」


「俺、左様の下で働く大工だから見たことあるぞ、間違いなく本物だ」


と、野次馬からの声が聞こえ出す。


「御大将、ここは私達にお任せを」


と、佐助。


「ああ、頼んだ。一人残らず捕まえよ。このような利権を勝手にむしばもうとする者は大嫌いだ。俺への反逆者として獄門台送りを命じる」


俺は、見せしめを決意する。


時には冷酷にならないとならないとき、それが今だ。


「かしこまりました」


「ちょっ、ちょっと助けてくだせぇ~」


と、叫びながら役人に連れて行かれる、やくざ達。


三日後、斬首され獄門台に首は乗った。


この事件以降、俺がお忍びで町を見回っていると言う噂が広がり、不届きなことをする者は一気に減少したそうだ。


時に見せしめは必要だ。


「名前を聞かなければ、喧嘩で事が済んでいたのにお可哀想なこと」


と、お初はにんまりと微笑んでいた。

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