第528話 スクリュー式
茨城城に戻ると、鹿島の造船所でスクリュー式の試験船の航行試験をすると知らせが届いたので鹿島港に向かう。
任せてある職人の長、国友茂光が出迎えた。
「殿様、形にはしましたが走れるかどうか、浮かぶかも」
と言う船は、平成で言えばダンプカーほどの大きさの船で、蒸気機関は積んでいるが、外輪と呼ばれる推進装置はなく、船底には三枚羽根のスクリューが見えていた。
「おっ、形にはなっているんだな」
「はい、しっかりと回ります。おい、回せ」
と指示を出すと中に乗っていた職人がスクリューを回す操作をした。
ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりと回っている。
扇風機の弱よりゆっくりだ。
「基本的な作りは求めているものだ。この推進装置の船が欲しかった」
「では、注水の合図を」
俺は手を挙げる振り下ろす。
「注水開始」
すると、造船ドッグに水が入りだす。
・・・・・・。
入りだした水に少しだけ浮いたと思ったら、なんだか様子がおかしい。
「頭、船底に水が水が入ってきて駄目ですぜ」
船は水面ギリギリしか顔を出していない。
もう少し水を入れたら沈没だ。
「注水止め、注水をまとめ止めよ」
俺は指示を出すと、水門はすぐに閉じられた。
完全沈没前に。
「殿様、申し訳ない」
「ははは、何が申し訳ない?俺が作って欲しい物は形にしたではないか?おそらく、スクリューの軸の密閉性の問題何だろう、それを改良していけば良いだけの話、最初から上手くいくなんて思ってないさ」
と、言葉をだすが、うなだれる職人達が無数に見える。
「よいか、失敗は成功の元、この失敗で誰かが責任を取る、ましてや、切腹自害などは一切許さないからな。この失敗を次に生かしてくれ」
と、言う。
この時代、失敗の責任の取り方と言えばすぐ自害をしようとする。
失敗を経験した者がいることこそ成功の鍵を開くのに近い人物なのに。
「いつもながらに寛大なお言葉で、殿様のしたで働けてうれしく感じます。みな、次は成功させるぞ」
と、国友茂光。
そして、その言葉に職人達は、「おー!」と返事をした。
スクリュー式の船、約300年後の船を開発しようとしているのだから、そう上手く行くとは思ってはいない。
気長に待とう。
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