第524話 領内巡察・日立城
1605年3月
梅が咲き誇り、メジロが花の蜜を啄しはじめ、鶯が鳴く練習を始めだした頃、俺も城から出て動き出す。
「まるで冬眠していた熊が動き出すみたいですね」
と、茶々が寒がりの俺を笑っている。
「ははは、寒がりは性分なのだから仕方がないだろ。少し領内を見てくる」
また、近々海に出る予定の為、その前に領内巡察をする事にした。
一つ気になってる城もあるからだ。
藤堂高虎に任せたままの久慈川河口に造らせている城だ。
いや、もう完成して数年経過している。
藤堂高虎は、久慈川河口の高台に天守を作り平成には日立港がある付近の整備開発をしている。
港は重要な拠点。
常陸国は鹿島港・日立港・五浦港を軍港として整備、鹿島港は柳生宗矩、五浦城は伊達政道、そして、日立港は藤堂高虎に任せてある。
鹿島港から、船で日立港を目指す。
日立港は鹿島港に負けず劣らずの海城として巨大な城塞になっていた。
海から見れば守りの砲台が死角なく設置されている。
港に着くと藤堂高虎は出迎える。
「お久しぶりにございます。御健勝の御様子で何よりにございます」
「あぁ、暖かくなってきたからな調子がよい。日立港、なかなかの出来だな。流石に藤堂高虎」
「嬉しい御言葉で、さぁ、こちらへ」
と、高台に案内される。
日立の地形は関東平野が終わる所で北は高台となる土地だ。
その高台に段々に廓が造られている。
俺が指示を出しているわけではないので、オーソドックスなと言うのか元来の日本の戦国時代の城だ。
萌な装飾は残念ながらない。
天守に上り周りを一望する。
東には太平洋、北は神峰の山々、南には関東平野、西には阿武隈山脈の山々。
眺めは最高に良い。
この地は、この時間線では関東の乱で主戦場となり多くの兵士の血が流れた土地だ。
それがなかったかのように畑が広がり、街も造られている。
「高虎、一つ頼みがある」
「なんでしょうか?」
「寺を建立してくれ」
「わかっております。茶々の方様の命ですでに完成しております」
茶々は俺が考える事をちゃんとわかっている心強い妻だ。
「そうか、もう建立してあるのか」
「はい、あの時の兵達の魂を鎮めるために。そして、怨霊となりし魂は大甕神社に封印しております」
「そうか、大甕神社を使ったか」
大甕神社、映画「君の名は」が好きな者なら隠れ聖地として有名な神社だ。
その神社には甕星香々背男と呼ばれる星の神が封印されている。
荒ぶる魂を封印するにはちょうど良い。
封印する力を持つ神、健葉槌命を祀る。
「高虎に任せて正解だったな。この日立は茨城の南北の海の中継地として重要な場所、このまま発展に尽力してくれ」
「はっ、ご期待にそえるよう働く所存にございます」
この日の夜は、日立城に宿泊し常磐物の新鮮な魚の刺身に舌鼓を打った。
同じく港近くである水戸を任せている山内一豊の所に泊まると、魚はみな火が通ってしまっているので、大違いだ。
次の日、激戦地だった場所に造られた寺に参拝をし、敵味方なく全ての魂の極楽往生を願った。
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