第514話 樺太視察その5

 樺太に滞在して三日目、須久那丸と男利王の元服の儀を執り行った。


烏帽子親は森力丸。


「須久那丸、名を須久之介氏琴と改め、北条須久之介氏琴と命名する。官位は従五位下樺太守をいただいておる。樺太の発展に尽力せよ」


和紙に書いた文字を参列した家臣に見せる。


「男利王、名を男利之介守琴と改め、黒坂男利之介守琴と命名する。アイヌ民筆頭奉行を命じアイヌ民をまとめ、そして北条家の家老、ポキビ城城主として弟、須久之介を支えよ」


こちらも和紙に書いた名前を見せる。


家臣達から、


「おめでとうございます」


と、挨拶を受ける。


参列した家臣の中には板部岡江雪斎もいた。


年を取り白髪で痩せ細っている板部岡江雪斎。


「北条の名が続くのは約束されたも同然、嬉しい限り」


と、涙を流していた。


北条家の繁栄と没落を見てきた板部岡江雪斎にとって北条の名が続く事、残す事が最後の役目だったのだろう。


北条氏規の娘と織田家と密接な関係を持つ俺のの息子が当主となる。


母違いだが姉の彩華は織田家に嫁いでいる。


そうなれば北条は織田家とも縁続きとなる。


よほどのことが起きない限り安泰だ。


「私はこれで思い残すことなく隠居させていただけます」


酒を注ぎに来た板部岡江雪斎は言う。


「この歳までご苦労であった。もし希望があるなら北条の旧領地の相模や伊豆あたりの寺にでも行けるように手配するが?」


「いえ、私はここで先代の菩提を弔うつもりにございます」


「そうか、体に気をつけてな」


「はい、ありがたきお言葉」


この後、板部岡江雪斎は春の訪れを待たずに病死した。


北条家の名が残ることがほぼ確約された事に、張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。


お疲れ様。合掌。


板部岡江雪斎亡き後、政治の穴埋めに常陸国立茨城男子士官学校から希望者を募り、家臣として送り黒坂流の政治改革を進めていくこととなる。


代表格となるのは水戸城主山内一豊の弟、山内康豊が家老として活躍してくれる。


樺太藩は独立した大名ではあるが、その実態は常陸藩の支藩的なつながりを持つ大名として廃藩置県までつながることとなる。



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