第494話 高山右近

 このイスパニア帝国との戦いの現況の源、高山右近が俺の前にいる。


「なぁ、なんであんな馬鹿なことをしたんだ」


「・・・・・・」


「折角やり直す機会として、南蛮の使者に推薦したのに」


「・・・・・・」


高山右近は何も語らなかった。


語らなかったと言うより、語れなかった。


マドリードを蒲生氏郷軍が包囲するとフィリッペⅢ世は高山右近を捕まえて城の門の上の見晴らせる所に断頭台、ギロチンを設置しそこで高山右近は処刑された。


そして、その首を差し出すことで織田信長に降伏を申し出てきたそうだ。


その首が今、このジブラルタル城の庭にある。


うん、別に俺は首実検しなくて良いのだけどな。


わざわざ織田信長が送ってきた。


色がどす黒く変わっていたが、顔の形は間違いなく高山右近だ。


俺の家臣としてそれなりの実績を残し、畜産の発展に尽力してくれた人物。


それが、宗教に取り憑かれたせいであらぬ方向に突き進んでしまった人物。


俺はそんな男にチャンスを与えたのだが、間違っていた。


主君である俺があのとき、厳罰にしていれば今このような戦争に発展していなかっただろう。


人の上に立つときには非情にならなくては駄目だと、高山右近の首を見ながらしみじみと思いながら語れぬ首についつい話しかけてしまった。


「慶次、高山右近の首をジブラルタル城下町の一番よく見える場所にさらせ」


慶次にそう命じる。


慶次は、


「裏切り者の末路は美しさのかけらもなしか」


と言って、さらし首にした。


『黒坂常陸介真琴に背く者は皆こうなるぞ』


そう高札に書いたそうな。


いや、俺に背くというか、織田信長に背いたらなんだけどな。


織田信長が高山右近の首で許すはずもなく、マドリードは連日砲撃が続いた。


織田信長はこの戦いを石山本願寺のように見せしめにする覚悟を持っているのが俺にはわかった。


背く者容赦せず。


皆殺しという手段も選ばずと言うのをヨーロッパ大陸で示したいのであろう。


俺はそこまで非情にはなれないので、この戦いのクライマックスの指揮から外されたであろう事も想像出来た。


俺なら、柳生宗矩配下や真田幸村・前田慶次配下の精鋭の忍び部隊で、フィリッペⅢ世を捕まえて広場で処刑するのが精一杯だ。


この違いが、第六天魔王と自負する覚悟を持った織田信長なのであろう。


自分の名が汚れることを恐れない男、それが織田信長だ。


俺はそれを恐れる男のままだ。

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