第438話 蒸気機関船
次の日の朝、俺は二日酔いの頭を抱えながら茨城城天守の自室に籠もろうとしていると、茶々が
「天守最上階にお登りください。そして、霞ヶ浦を眺めていてください」
そう言って去っていった。
言われたように霞ヶ浦を眺める。
太陽の日差しが水面を輝かせる。
それは今の俺には辛い仕打ちに思えたが一気に心境は変わった。
「な、なんだ、なんだ、なんだ」
小さな小さな帆のない小さな船が煙をモクモクと出しながら進んでいる。
船尾には水車が回っているように見える。
その小さな船を望遠鏡で見ると、力丸が船首で大きく手を振っているのが見える。
「まっ、まっ、まさか、蒸気機関船?え?作れたの?」
俺は慌てて茨城城港に走り出す。
俺のいない間に完成していたのか?え?
港の桟橋に接岸した船はまさに蒸気機関船だった。
「力丸、これはどうした?」
「はい、蒸気機関船の試験船です。御大将が残した設計絵図をもとに作り完成致しました」
「凄い凄い凄い凄い、まさかこんなに早く作れるなんて」
「御大将の知識があればこそに御座います。御大将、御大将がいなければ歴史は止まります。発展し進化し続けるためには御大将は必要不可欠なのです。兵達も皆それを分かっているからこそ盾になったのです。御大将の自らの価値は計り知れないもの、それを見誤っては行けません」
「力丸・・・・・・」
「負けたなら次は勝つ船を造ろうじゃ有りませんか、敵に囲まれても勝てる船を」
「そうだな、俺には俺しか考えつかない未来の知識があるんだよな。俺が消えたらただひっかき回すだけひっかき回してなんの処理もしない無責任な男になるんだよな。安定させるまでは死んでは駄目なんだよな」
「そうですよ、さぁ、新しい船の為に絵図を書いてください。皆待ってます。幕府には戦艦造りの許可もいただき大阪からも鉄甲船の作り手を派遣してもらっています」
「よし、書こう、これは俺にしか出来ない仕事、俺は自らが戦場で差配するより新しい兵器を開発するのが合うんだよな」
俺は俺自身の官位官職のせいか見誤っていた。
俺自身が戦場で差配し戦うのではなく、知識を生かして後方支援に専念すべきだったことに今更ながらに気が付いた。
俺は蒸気機関試験船に乗り、霞ヶ浦を一周した。
バシャバシャバシャバシャと水車が回りながら石炭が燃える黒い煙を出して進む船、俺の行くべき道を示すかのように煙は流れていく。
蒸気機関船の完成、俺は何年時代を進めたのかな?
「造るぞ、造るぞ、造るぞ、幕末の日本をサスケハナ号が脅したように、今度は俺が世界を脅すんだ、これは俺だからこそわかる戦略なんだ」
見失いかけていた自分の立ち位置に今更ながらに気が付いた。
船を降りると、顔つき目つきが復活したのがわかったのか、お江がいつものように首にしがみついてきて、
「マコ~おかえり」
と、本当の意味でのお帰りを言ってくれた。
お江は本当に頭が良い。
その行動で家族みんながにこやかな顔に変わっていた。
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