第436話 大将としての自覚
「大将の自覚が足りんな」
そう織田信長は海を眺めながらつぶやいた。
「はい、大将として力量不足で兵を死なせてしまいました」
俺は正座をし涙をこらえる。
「ふっ、馬鹿か?」
久々に『馬鹿か』と言われた気がする。
「はい、馬鹿なんでしょうね」
織田信長は振り向き、鉄の扇子で頭を軽く叩いた。
痛いが耐えられるくらいの痛みに手加減を感じる。
「大将の自覚、それは戦場で生き延びる覚悟を持つことだ。大将は窮地に陥ったときとにかく逃げなければならないのだ。その覚悟ができていなかったな」
「逃げるって、出来ません」
「儂も何度も逃げているぞ、常陸なら知っておるのではないか?逃げて多くの兵を失っている。儂の盾になろうと森蘭丸達の父親だって死んでいるのだぞ」
確かに織田信長は朝倉攻めで浅井の裏切りにあい窮地に陥ったときに逃げている。
他にも逃げている戦いは意外にも多い。
逃げの判断の速さは有名だ。
「武将にはなれたのだ、大将になれ、真琴」
初めて名前を呼ばれた気がする。
「真琴、儂はな昔、美濃の蝮、斉藤道三に儂が死んだら息子達は信長の城の門前に馬をつなぐことになるだろうと言われた。ようは儂は美濃の蝮に認められたのだが、あのときの蝮のように儂も真琴をそう評価する。が、お主は野心はないからそうはならないのだろうがな」
俺が織田信忠の上に立つなど微塵も思っていない。
世界を平和にする為に働き、茨城でゆっくり暮らしたいただそれだけだ。
茨城の海の幸、山の幸を食べのんびり過ごせる事を望んでいる。
「勝ちすぎて疲れてしまっただろう。真琴、休め。常陸に帰って休め」
「しかし、信長様」
と、言葉を続けようとするとまた軽く鉄の扇子で軽く叩かれ、
「今の真琴に兵を預けても、がむしゃらに弔い合戦をし相手を皆殺し、自分の兵も殺す夜叉に成り下がる。そのような者に兵を預けることは出来ぬ。少し、常陸で休み頭を冷やせ。弥助、日本に向かう船に無理矢理乗せろ、この辺の海からは敵は消し、この南北の大陸を南蛮から封鎖することぐらいは儂だって考えつくこと、いきなり敵の陣地に乗り込むほど馬鹿ではないは」
織田信長はそう言って部屋から出て行った。
「常陸様、御免」
筋肉隆々マッチョマンの弥助に抱きかかえられ、俺は日本に帰る船に側室達と共に強制的に帰らされた。
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