第294話 アイヌ同盟
人喰い熊ジダンを退治したあとトゥルックは途中で村に帰って行った。
城からはそう遠くないところに住んでいるらしい。
城に帰るとすぐに血や泥を落とすのに風呂に入ると、小糸と小滝が一生懸命洗ってくれ、いろいろと気持ちよかった。
夕飯時、熊を倒した武勇伝やら襲われた時の話しなどせず、沈黙の夕飯。
そして、翌日にはなくなった者の葬儀を行った。
そこにトゥルックも参列してくれた。
「トゥルック、森を切り開けば獣たちとの接触が多くなるのはわからなくはない、だが、人が住む以上はこの地の支配者にならなければ惨劇は続くぞ」
「どういする しかし いたずらに モリをきりひらく ゆるさない」
「わかった。アイヌ民の意思を尊重しながら、開発するところ保護するところ分けようではないか、南樺太の地ならまだ住める気候だが北となると厳しい、そこは自然保護区に指定する」
「どういする むらおさのハハと あってくれないか」
「かまわない、明日こちらから出向こう」
「あさ むかえに くる」
次の日約束通りトゥルックは迎えに来たので、最低限の兵30人と宗矩を連れて村に向かった。
1時間もしないところにある村は竪穴式住居が少し進化したくらいの家が並ぶ村だった。
その中でも少し大きな家に案内される。
中は簡素な作りで獣の皮が敷かれており真ん中に囲炉裏がある作り。
護衛達を外に待たせ中に入ると40歳くらいでオリンピックレスリングに出てきそうなマッチョな女性が座っていた。
「ハハは にほんご わからない つうやくする」
と、トゥルック
「よくきてくれた ジダン たいじ かんしゃする」
「いえ、当たり前の仕事をしただけです」
と、言うとその女性は静かに目を閉じ何かをブツブツと唱えている。
「ハハは かみがみの 声 せいれいの 声 きける」
「それは俺とも近いな」
「くろさかさま つかえるのか?」
「あぁ、神仏の力を借りて妖魔を退治するからな」
と、目を閉じていた村長が目を開けトゥルックに慌てたように何かを言っている。
「くろさかさま あなたは なにもの? ハハ おどろいている さきのせかいを みている しっている と」
シャーマンと言うのだろうか、アイヌ民の神官的な力を持っているのだろう。
「はい、未来を知っていますから」
と、だけ答えると
「わたしたち あなたに したがう そう ハハが いっている」
と言う。
「俺は、あなたたちの文化を尊重し共生と言う道を選びたい、北条の者に開拓して良い土地、駄目な土地を伝え力を貸して欲しい」
「ハハ りょうしょうした わたしも ハハのことばに したがう」
と言うトゥルックの手を取り俺は握手をするとそんな文化がないのか驚き手を引っ込めた。
「なにを するか」
「ごめんごめん、仲直りの挨拶のつもりだったんだけどな」
「そうか わかった」
と、トゥルックは手を前に出してくれたので俺は力強く握手をした。
そのやりとりをトゥルックの母親はにこやかに見ていた。
「ただし ほうじょうの かしん ならない。 くろさかさまのかしん になる」
「なら、俺の同盟者となってもらおう。君たちを支配するつもりなどはないからな」
俺は外にいる宗矩に紙と筆を用意させ、
『アイヌ民を黒坂常陸守真琴の友人、同盟者とする。粗悪に扱う者許すまじ
正三位大納言平氏朝臣黒坂常陸守真琴』
と書きそれをトゥルックの母親に渡した。
「それがあれば北条の他、日本国に属する者は粗悪に扱うことはないから、何かあったら見せると良い」
「わかった ありがとう」
とトゥルックが母親の言葉を通訳していた。
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