第293話 熊退治

 集められた兵士は30人、すべて俺の家臣団。


樺太に連れてきた兵士の中でも選りすぐりの者だけを同行させる。


伊達政宗は城から馬で一時間ほど北部に行ったところで襲われたらしいと言う情報だけが入ってきている。


「あんない スル」


トゥルックが言う。


トゥルックも馬に乗り現場に向かうと腹だけが食いちぎられた兵士の遺体が3、そしてかすかに息をしているが腹が

食いちぎられている者が一人気にもたれ座っていた。


凄惨な光景に目を背けたくなるが宗矩が馬から下りて、その兵士に近づくと


「伊達様はいずこか?」


と、聞くとその兵士は最後の力を振り絞って右手をあげ東を指さした。


「あとの事は任せなさい。必ず助ける。御免」


と、宗矩は首に担当を滑らすように当て頸動脈を静かに切り介錯をした。


俺は手を合わせながらもその指さす方向へ馬を走らす。


「トマって ジダン ちかい」


と、トゥルックは手を上げた。


「皆、止まれ、火縄銃改散弾銃玉込め」


と、俺は指示を出す。


静かに物音を立てずに馬を下り円陣形になる。


静かに静かに歩みを進めると、木の陰に体長3メートルを超えるヒグマが見えた。


その時、後ろにいた馬が鳴いて暴れてしまうとそれに気が付きヒグマが突進してきた。


「狙い定めー、撃てーーーーーーー」


そのヒグマに向けられた銃10発がはなたれ細かく散った玉が飛んでいくが、森の木々にぶつかりヒグマに当たらない。


残っている銃が再び狙いを定めるときにはそのヒグマは物陰に隠れていた。


「ジダンは アタマ いい でてこない」


と、トゥルック。


このあたりは狼もいる。


日が沈むまでに伊達政宗と合流する必要がある。


俺は愛刀をいつでも抜けるようにし、


「払いたまへ~清めたまへ~守りたまへ~武御雷大神よ力を貸しあたえたまへ~」


と、祈りながら進む。


妖魔を相手にしているわけではないので陰陽の力を使うわけではなく単純に神頼みだ。


静かに静かに一歩ずつ森を進む。


犠牲者を出さないためには火縄銃で遠くから射殺するのが良く、接近戦なら俺か宗矩が相手をするのが一番犠牲者出ずに済む。


先頭を俺が歩き一番後ろを宗矩が歩く。


一歩一歩前へ木々を分け入りながら・・・・・・。


一本の特別大きな木を通り過ぎたところで、すぐ後ろを歩いていたトゥルックめがけてヒグマが襲い掛かる。


大きな木を通り過ぎたところで俺は血の匂いに気づきすでに抜刀体制。


【鹿島神道流、秘儀一之太刀・雷鳴】


雷のごとく素早い抜刀術、それが俺の家に伝わる秘儀。


後ろに倒れるトゥルックに襲いかかるヒグマを一気に斬り付けると熊の右腕が肩から斬り落ちた。


その瞬間、俺に牙を向けたヒグマは微動だにしないで立ったまま止まった。


後ろから跳躍で飛んできた宗矩が背中から心臓を貫いていた。


「ナンナの アナタたちは そんなケン で ジダン コロスなんて」


と、襲われたことの恐怖より俺たち二人の斬撃に驚いていた。


「まあ、このくらいの腕はないとな、人の上には立てないから」


血糊を拭き取り納刀して倒れているトゥルックを抱き起こすと、体は正直で立てないようだったのでお姫様抱っこをする。


金髪美少女をお姫様抱っこ。


ハートマークが頭によぎるが今はそれどころではない。


「おろしてー」


と、暴れるトゥルックをトゥルックの仲間に仕方がなく渡したころに騒ぎが聞こえたとのことで、洞窟に避難していた伊達政宗が無事に現れた。


「政宗殿、ご無事で何より」


「この熊は常陸様が?」


「ああ、宗矩と二人で仕留めた」


「そんな、私の刀はへし折れた怪物だというのに」


と、伊達政宗も戦ったらしく折れた刀を力強く握りしめ手から放せないでいた。


「まあ、俺の刀は酒呑童子退治に使われた刀と伝わる品だし」


俺は織田信長から童子切安綱を貰いそれを愛刀としている。


名前にふさわしい剛剣は俺との相性が良かった。


妖魔退治に使えと渡されたが初めて切る獲物が人喰いのジダンと名付けられた大熊だった。


「さぁ、日暮れまでに帰ろう。血のにおいで他によってきそうだ」


伊達政宗救出は伊達家家臣4人の犠牲を出しながらもなんとか無事に帰還できた。


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