第276話 真夏の果実

 織田信長から貰って庭で育てさせた植物は弦がどんどん伸びた。


葉っぱの形に弦状になるので竹で柵を作ると黄色い花が咲き緑の実が成長している。


この時点で俺はなんだかなわかったが、茶々が


「茶室に飾りましょう」


などと言い出すのを止めた。


「おっと、待て待て待て、信長様は観賞用と言っていたが、これは食べられるんだ、赤く熟すまで待ってくれ」


意外にも日本には戦国末期から江戸時代にかけていろいろな植物が輸入され育てられるのだが、大半は食べられずに観賞用に輸入されていたりする。


始めてみる植物を食べるのには勇気が必要だ。


俺は子供の頃、初めてパクチーを食べ・・・かめ虫?っと衝撃が走ったのを経験しているからわからなくはない。


唐辛子や今なっている実もそうだ。


実際には今育てているのは史実歴史線では江戸後期に伝わってきたはずだが、織田信長の率先した海外遠征で早く手には入った。


そんな実を熟していくのを待つ。


意外にも歩き始めたばかりの武丸がその実に興味を示したのか毎日眺めている。


蝉が鳴き出した頃、真っ赤に熟した実を5つほど収穫して、井戸水で冷やして、包丁で4等分に切り分けてもらう。


「うわ、なんですこれは、中身緑でドロドロ、腐ってませんか?これ」


と、小糸。


「これはこういう食べ物なんだよ。大丈夫食べられるから」


「それも未来の知識ですか?」


「それはいずれ話す」


梅子の出産の時にお市様言った言葉は皆は気になっているようだ。


もちろん、他の者がいるときには口にはしないが二人っきりになったりしたふとしたときに聞いてくることが最近発生している。


取り敢えず今日はこの実を皆で試食する。


昼飯の時に切り分けたのを出す。


皆、赤い実から青緑の中身が出ている見た目が気になる様子。


先ずは俺が食べてみせる。


「おっ、んーおれが知っているのより青臭く、酸っぱいがまさしくトマトだ。みんな食べてみてくれ」


と、言うと


最初に食べたのは、お江。


「酸っぱ、美味しくない~青臭い~」


珍しく拒否するお江。


茶々、お初、桜子、梅子、桃子、小糸、小滝もほぼ同じ反応。


ラララとリリリは食べたことがあるのか似たような物を知っているのか、


「美味しいですです」


「さっぱりとするっぺ」


と、言って喜んでいる。


そして意外なのは、武丸と彩華と仁保は細かく刻んだ物を酸っぱ顔をしながら食べていた。


チュッパチュッパ言いながら喜んでいる。


「皆、苦手か?これは、トマトと言ってこの実にはリコピンと言ってとても体に良い成分が入っているんだよ。確か、老化防止になるんじゃなかったかな」


と、言うと皆が残っているのを無理やり口に押し込んでいた。


「無理して食べなくても、生苦手ならあとで料理に活用するのに」


と、言うと茶々が


「それは早く言って欲しかったです」


と、口から青緑の汁を垂らしながら言っていた。


トマト。


料理のバリエーションが一気に増えるぞ。


「あっ、こら、武丸、俺のまで食べるな」


武丸は生のトマトが気に入ったらしい。


鼻息を荒く出しながらムシャムシャと食べていた。



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