第275話 第四子?

1590年6月22日


梅雨の盛りの大雨が続く中、梅子が産気づいた。


その知らせは俺が天守で執務をしていたときに来る。


流石に四回目、慌てることなく俺は城内に鹿島神宮から分祀している社殿に入り拝んだ。


「祓いたまへ清めたまへ守りたまへ幸与えたまへ、武御雷大神よ梅子の無事の出産に力を貸し与えたまへ」


と、祈りをする。


すると、黒く立ち込めていた空が雷鳴が鳴り響く。


おぎゃあーーーーー。

おぎゃあーーーーー。


「え?あれ?」


と、外を覗くと社殿の外で蓑を着て傘を被り待機している力丸が梅子付きの女中から耳打ちされている。


「生まれたのだな、だがどうした?」


戸惑っている女中と暗い顔をしている力丸。


「そっ、それが・・・・・・」


と、言いにくそう。なにか不測の事態があったのかと慌てて奥の間に行く。


今日は転んで泥だらけになどなっていない。


襖の手前まで行くとなぜか、


おぎゃあーーーーー。


の声がステレオだ。


襖からそっと顔を出したお江が、


「心して見てね」


と、いつもの笑顔が見られない。


梅子に何かあったのかと恐る恐る開けると、二人の赤子を抱いている梅子。


「嫌です、片方を取り上げるなど嫌ですーーーーーーーー」


と、出産したばかりで顔面蒼白なのに必死に抵抗していた。


それを宥める様にお市様が、


「でもね、双子は良くないの、だからね。殺しはしないけど他に預けさせてほしいの」


と、言っている。


「どうしました?」


と、俺が言うと、


「この通りなんですが」


と、二人の赤子を指さす。


「おっ、双子じゃん、すごいよ、双子かぁ~うわ~俺の子に双子か~成長楽しみだな~梅子二人一遍に出産大変だったでしょ?とにかく落ち着いて」


と、言うと、双子の誕生に困惑していた周りの者が不思議にしている。


「常陸様、双子はその、畜生腹と申しまして忌み嫌われ、一人は寺社や家臣などに渡し別の子として育てたりいたすのが一般的なのですが」


と、お市様。


「必要ないですよ。お市様、皆の者、双子や三つ子や四つ子だろうと問題ない。子種となる核がたまたま分離したり、受精児に卵子二つに受精したりするだけで、そのような嫌う意味は全くないのが科学的にわかっているので、引き離すような真似はしなくて良いのです」


と、俺が言うと、梅子が、


「御主人様~」


と、泣いていた。


「よしよし、二人引き離すことはしない、約束するからわかるな、とにかく落ち着いてくれなっ、お江、桃子、少し二人を頼む」


と言うと赤子をお江と桃子が抱く。


「陰陽に精通している常陸様、言え未来の知識のある常陸様がそう言うなら」


「あっ、お市様、それ言っちゃダメなやつ」


お市様も気が張り詰めていたのだろう、思わず言葉に出してしまう。


幸い、今この部屋には俺の側室、部屋の外は力丸だけだったのが良かったが、茶々、お初、力丸以外は「なにを言っているの?」と言わんばかりで目を丸くしている。


「母上様、それは皆に内緒でしたのに。皆、今の言葉は後々説明します。が、今は心に秘めて誰にも言うことは許しません」


と、茶々。


「そうだな、今はこの子たちの事が大切、黒坂家当主である俺が命じる。この子二人は城で皆と同じように育てる。忌み嫌う必要などない。いいな、わかったな」


と、言うと皆は静かに頭を下げ


襖の外からも力丸が


「御意」


と言っているのが聞こえた。


「真琴様、二人に名を女の子です」


と、茶々。


「そうか、女か可愛いく育てよ。常陸の神から神力を借りすくすく育つように願いを込め名を授ける。那岐と那美とだ」


「神産みの神、筑波山の神様の伊邪那岐と伊邪那美様からね。やっぱり、名前はまともなの考えるわよね。あの萌えとか言う美的感覚から変な名前つけるんじゃないかとハラハラするんだけど、悪くない名前ね」


と、お初が言うと、張り詰めていた緊張が解けたのかみんなくすくすと笑っていた。


俺はこのことを教訓に多胎児保護の御触れを領内に出した。


効果はどうなるかなどはわからないかが、陰陽道に精通し神々を尊んでいる俺が自分の子の双子を育てることで、モデルケースになることを願った。

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