第269話 金砂郷神社例大祭 

 梅の花がほころびだし、ホーホケキョの声が聞こえだした頃、笠間城一帯を任せてある左甚五郎から知らせが届いた。


『金砂郷神社、御神体清めの大例大祭、田植え前にしたいとの申し出があったのでこれを許可いたしました』


との知らせが届いた。


高山右近に邪魔されてしまった大事な神事を行うという。


「宗矩、すぐに足軽を集めてくれ」


と、左甚五郎から届いた手紙を見せながら言うと、


「御大将、例大祭を取り締まるというのですか?」


と、困惑の声が宗矩が出した。


「馬鹿か?」


と、織田信長のまねをすると、宗矩はため息交じりに、


「御大将、私みたいに近くで働いている者でも勘違いいたしますので御発言には十分注意してください。わかりました。足軽達に御神体の警護をさせるのですね?高山右近、ルイス・フロイスを追放したことでキリシタンの襲撃があるかもとお考えなのですね?」


「そういうことだ」


高山右近と、ルイス・フロイスを追放してもバテレン禁教令などは出していないため多くのキリシタンに改宗した者は領地に残っている。


そのような者の中から少なからず今回の追放の発端となった例大祭に、恨みを持つ者がいないとは限らないと考えたからだ。


「では、すぐに」


と、宗矩は手配する兵、およそ5000の足軽隊が金砂郷に入ると大例大祭は粛々と進められた。


常陸太田から日立の海岸までのおよそ75キロを御神体を乗せた神輿が進む。


最終的にその神輿から降ろされた御神体が海で清められる神事がこの金砂郷神社の大例大祭。


史実世界線では日本で最長周期と言われる72年に1回と言う祭りなのだが、それは水戸徳川家になってからのことで、佐竹家統治時代ならもっと短い周期で行われている。


2週間後、無事に祭りが行われたことを報告しに金砂郷神社の神主が茨城城に来た。


「この度の御配慮厚く御礼申し上げます」


「いや、こちろこそ相性の良くない者を任命してしまって悪かった」


と、頭を下げると


「そんな、もったいなきことでございます」


と、神主は床に額をこすりつけるようにしていた。


「例大祭、12年周期で行うこととするが良いか?」


「はい、12年、ちょうど干支が一回りいたして良い区切りかと思います」


俺は72年周期で平成に伝わる祭りを12年周期と定めた。


「これから田植えの季節だな、よく実るよう祈ってくれ」


「はい、かしこまりましてございます」


例大祭に兵を出し厚く遇したのが話題となって広まっているのを俺はこの時は知らなかった。






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