第270話 笠間稲荷神社神主

 左甚五郎が困り顔で登城してきた。


「どうした?そんな困った顔をして?こないだの例大祭の差配は新免が取り仕切ってくれたのであろう?」


「はい、滞りなくいたしてくれたのであっしは特に手出しはしていないのですがね、御大将が例大祭に厚く遇したので会いたいという者が現れまして、話しを先に聞いたのですがどうしたものかと・・・・・・」


と、なんとも言いにくそうに言う。


「誰が会いたいと申しているのだ?」


「はい、笠間稲荷神社の神主なのですが、それが、連れてきたのは良いのですが、あの門で見入ってしまったのか立ち止まってしまって動かないのです」


「大手門のあれか?」


「はい、鉄黒漆塗風神雷神萌美少女門に見とれてしまったようで」


「おっ、なかなか見込みのある神主ではないか?よし、会いに行くぞ」


と、俺は動かなくなってしまったという神主に会いに門に行くと、座り込んで見ていた。


「これ、黒坂常陸様ぞ」


と、左甚五郎が言うが微動だにしない。


俺はその隣に座り肩に手を回して、


「良いでしょ」


と、声をかけると


「素晴らしい、とても素晴らしい、これは神々しさを感じる」


と、言う。


「で、あなたはだれです?」


と言う神主に、


「黒坂常陸守だ、この門の素晴らしさがわかってもらえて嬉しい」


と、言うと


「申し訳ありません、私は笠間神社で神主を務めます、佐伯崑々(さえきこんこん)と申します」


「なにか用があると聞いたが?」


「はい、常陸様は神社に対して信仰厚き方と聞き及んで厚かましいお願いではございますが修繕いただいている本殿に合わせまして山門を作っていただきたくお願いに来たのですが、この門・・・・・・素晴らしい」


と、また、見入ってしまう崑々を力丸と宗矩が抱えて城の広間に運んだ。


「笠間には高山右近の事で迷惑をかけてしまったからな、よし、甚五郎、山門も新築せよ。寄進する」


「よろしいので?」


と、崑々。


「もちろんだとも、後々まで続く門を作ってくれ、頼んだぞ甚五郎」


「はい、もちろんあっしはそれが本業なのでかまいませんが、門、どんなのにします?」


と、門の作りの話しをしていると、襖を器用に開け入ってくる武丸。


武丸が部屋で黙々とハイハイをしている方が気になり、適当に返事をしてしまう。


「それは二人で決めてもらってかまわない。お金は茶々と力丸との相談だから俺からは言えないが、あまり贅沢な作りでなければ問題ない。あとは任せる」


武丸の後ろからどこえ行くのか付いていく俺。


「たけまる~たけまる~」


そのことがどのような結果になるかは俺はまったく知らなかった。

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