第251話 安土城登城

 出産も落ち着き、笠間城問題も一息着くとすでに1589年の年の瀬となっていた。


外は小雪が舞い散るが、茨城城は暖かい。


そんな茨城城内で武丸、彩華、仁保はすくすくと育っている。


プニプニした腕や足をムニュムニュ触るのがマイブーム。


武丸の腕をムニュムニュしても、さほど反応せずムスッと俺の目を見つめ、彩華に同じ事をすると、怒ったように泣き、仁保にすればキャッキャッと笑顔で喜んでくれた。


俺の子でも母親が違うと個性もだいぶ違うようだ。


しかし、やることも多い日々のため遊んでばかりはいられない。


しばらく登城していない安土にも用がある。


織田信長が現在、海外に出てしまっているが俺は幕府No.2の地位にいる。


たまには登城もしないとならない。


普段は力丸が行き来しているのだが、少々直接頼みたいこともあるのだ。


信長不在時の上役は勿論、征夷大将軍の織田信忠だ。


家臣ではないという、俺の微妙な立ち位置でも幕府の職に就いている俺は、平成の会社で例えるなら、外部から来た外部取締役役員と言ったところだろうか、そんな取締役役員の俺に織田家から与力として来ている、森力丸・前田慶次・柳生宗矩・真田幸村・山内一豊・藤堂高虎、それと狩野永徳の事で信忠に話がある。


武丸を抱きながら茶々に、


「安土に行ってくるが留守を頼めるか?」


「もちろんに御座いますが、安土に行かれるなら松様を送っていってあげて下さい」


「そうだな、ついつい甘えてしまった。送り届けよう」


前田利家の妻、松様は茶々達の出産の世話をしてくれた後、養育もしていてくれた。


四カ月も甘えてしまった。


義母であるお市様はしばらくは居るとのことなので松様に、


「安土に行く用があるので、一緒にいかがですか?」


と聞くと、


「そうですね、一段落いたしたので帰ります」


との返事をいただいた。


安土にはいつも通りに南蛮型鉄甲船で向かう。


同行する家臣は森力丸、柳生宗矩、伊達政道、それにお江と小糸と小滝も同行する。


お初が、


「側室を連れて行かないとまた、増えそうだから連れて行きなさい」


と、強く言ったためだ。


お江は船に慣れていたが、小糸と小滝は酔って寝込んでいた。


鹿島港を出港して3日で大阪城港に入港、一泊休んで京都経由で安土城に入城する。


安土城内にある俺の屋敷はまだそのまま、留守居番の家臣達が綺麗にしてくれている。


「松様、いろいろとお世話になりました。この御礼は改めていずれ必ず」


屋敷が隣同士なのてで、前田邸に入ろうとする松様に門前で礼を言うと、


「なに、毎日美味しい物が食べられたのですから、御礼などいりませんよ。それに彩華姫ですか?仁保姫ですか?どちらにせよ、三法師様の嫁になるかたの御世話を出来たことは前田家に取っても良きことなのですから、お気になさらずに」


「はい、本当にありがとうございます」


深々と御辞儀をすると、


「ほら、大納言様なんですからその様なことをせずに、胸を張って」


バン


と、俺の背中をたたき屋敷に帰って行った。


俺達も自分の屋敷に入りその日は休んだ。


織田信忠には翌日に会えるよう力丸が手配してくれた。

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