第240話 第一子誕生
1589年8月22日
夜も明け切らぬ早朝の蜩の大合唱で軽く目が覚めると、城内が早朝だと言うのに慌ただしい気配を感じる。
寝室から出て様子を伺うと、松様が白い綺麗な着物にたすき掛け姿で、大量の綺麗な布を持って走っていた。
「おはようございます。どうしました?」
と、声をかけると
「お印がでましたのよ」
「え?」
「だから、出産が始まります」
「ま、マジっすか?」
「何ですか、その返事は?まぁ良いです」
と、茶々の出産の準備がなされている部屋に走っていった。
俺もそちらに向かうと、二部屋前くらいの廊下でお初に止められた。
「真琴様は何も出来ないのだから、産まれるの待っていて下さい」
「いや、でも様子くらいは」
「待っていなさい」
廊下を通らしてもらえない、習慣、慣例などわからないがこの先は女の戦いなのだろう、立ち会い出産はできない様子。
ひたすら部屋をうろうろ歩き回ると様子を見に来たお江に、
「落ち着きなよ、マコ~」
と、言われてしまう。
正座をしながらそわそわと身を揺らしながら待つ、ただ待つ、長い時を待つ。
まだかまだかと、待っていると完全に朝日は昇る。
暑い日差しが降り注ぐがまだ、産まれたとは言われなくそわそわ、いてもたってもいられない。
俺は、場内にある鹿島神宮の分社に入り祈りを唱える。
「祓いたまへ、清めたまへ、護りたまへ、幸与えたまへ、武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)の力を貸し与えたまへ」
ひたすら神頼みだ。
小さな社殿の外では城で泊まり番だった力丸と政道も玉砂利の上に正座をして、我が子の事のように祈ってくれている。
「おぎゃーおぎゃーおぎゃーおぎゃー」
かすかにきこえる泣き声。
え!?
「産まれた?産まれたのか?」
慌てて社殿から出て、段差に躓き転げ落ちる玉砂利まみれになっていると、お江が走ってきた。
「マコ~、産まれたよ、赤ちゃんも茶々姉上様も無事だよ」
腰砕けになり、立てない俺に両肩を力丸と宗矩が抱えてくれて立たせてくれた。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
二人は満面の笑みで喜んでくれる。
太陽は一番頂点から日差しを降り注がせ、子供の誕生を祝ってくれているようだった。
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