第236話 大納言黒坂常陸守真琴直営食堂来客

 お茶をすすりながら様子を見ていると見知った顔の人物が入ってきた。


「常陸様の名前を語って店を出すとは不届きな、懲らしめてくれる」


と、言いながら暖簾をくぐってきた人物は、俺の顔を見て凝視し固まってしまった。


口をパクパクと開けてい言葉を出せないでいる本多正純。


宗矩がすかさず耳元に近寄り、


「正真正銘の直営店です。本日は忍んで来ていますのでお静かに」


と、ぼそりと言うと金縛りから解かれたように動いてわざわざ俺の隣のテーブルに腰を下ろした。


小さな声で、


「失礼いたしました。常陸様、まさかこのような店が出来るとは」


「あぁ、うちで買い取った娘子(むすめご)達の働く場所としての店として、そして新しき作物の味を知ってもらう機会と思って作った店なのだ」


そう話していると緑子が注文を取りに来た。


「豚カツ定食を頼もう」


そう言う正純に10分ぐらいで出された。


「では、失礼していただきます。ぬほっ、これはまさに城でいただく黒坂家の食卓の味、天下一品」


と、わざとらしく言うが、揚げたて豚カツを口に保奪って湯気を出している正純は本当に美味しそうに食べていた。


「おい、あのお侍様言うんだから間違いでねぇんでねぇの」


「んだな、まさか殿様が商売するなんて驚きだんべ」


「どれ、俺達もあれを食べてみっぺ」


唐揚げ定食、豚カツ定食、カレー定食が次々に運ばれて大盛況となる。


この日は初日の為、仕込みもさほど用意していなかったので、50人ほどの客が舌鼓を打つと閉店となった。


「お殿様、大盛況でございましたね」


と、緑子が言ってくる。


「良い出だしだな、しばらくは用心棒に誰かをこっそりと送るから何かあったらすぐに報告しなさい」


「はい、ですが、あそこで豚カツ、唐揚げ、カレー、ずんだと四人前を食べて横になっているお方が毎日通うと申していますから大丈夫では?」


「正純か?正純が毎日着ていたらどんどん膨れ上がってしまう。ほどほどにさせないとならんからな」


正純には三日に一回までと注意しておく、メタボリックシンドロームになってしまうから仕方がないだろう。


初日の客たちが噂をしだして、一週間後に訪れた時には大行列ができる店になっていた。


ふふふ、やはり、唐揚げ、豚カツ、カレーは国民食だな。


・・・・・・ん?あっ!あれを忘れていた。


日本国民食最大勢力が存在する料理を。

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