第235話 大納言黒坂常陸守真琴直営食堂

 一ヶ月もしないうちに準備は整い『大納言黒坂常陸守真琴直営食堂』は開店となる。


茨城城大手門前と言う好立地だ。


もちろん、大手門付近は重臣家臣中心の住居が並ぶが、『鉄黒漆塗風神雷神萌美少女門』見たさの見学者達が集まる一等地にオープンした店。


看板の布が剥ぎ取られると、周囲にいた人達がざわめき出す。


板に大納言黒坂常陸守真琴直営店と横に書いただけだった看板だったのだが、中心上に俺の家紋『抱きおもだか』の家門が装飾され両脇には、やはり美少女が風神雷神になった姿の彫刻が飾られていた。


明らかに、左甚五郎作だ。


森力丸が手配したのだろう。


開店前に店先に営業をしていく生徒たちを並べて一枚写真を撮影する。


そうしているうちに人だかりは出来、声が聞こえる。


「おいおい、大納言様直営店ってなんだよ」


「まさか、それはねぇーべよ」


「便乗商法だっぺ」


「んだな、鉄黒漆塗風神雷神萌美少女門を見に来る客を入れる店だっぺ」


などと聞こえる。


さらに、暖簾が掛けられた。


狩野永徳作、美少女ふんだんに描かれた暖簾。


もはやいかがわしい店にしか見えない。


まぁあ、仕方がない。


俺の趣味嗜好に合わせてくれた二人には怒れない。


とりあえず、一般人に紛れ込みながら一人目の客として入店する。


護衛の柳生宗矩と一緒に。


「いらっしゃいませ~」


生徒たちには俺は味見に最初に入店する事は行ってあるので一般人客として扱う。


「唐揚げ定食を頼む」


俺が頼むと、宗矩が、


「私はカレー定食を」


と、頼んだ。


店員には変な服は着させてはいない。


お揃いの藍染の着物に白い割烹着だ。


もちろん、メイド服を考えたが看板に俺の名があるために品格を大事にする。


それに着る生徒たちのことも考えて、正統派にした。


この子達はいずれはしかるべき家に嫁に出すのだから。


「かしこまりましたー」


元気な声で注文を取るのは、あおいの次に学校生徒を纏めている緑子だ。


暖簾の外からは覗いている者はいるが入ってはこない。


看板が恐いのだろうか?


10分もしないうちに出来上がる定食は、いつもの味で美味い。


わざとらしく、


「ぬぉ~美味い、美味いぞ、娘」


と、言う。


「ありがとうございます。大納言様自ら伝授下された料理ですから」


と、わざとらしい三文芝居をすると、入り口で聞き耳を立てている者がざわついている。


「本当に、大納言様の店なんだっぺか?」


「高いんでねぇの?」


「いくら、なんだっぺか?」


と、そりゃ値段を出さなかったのは失敗だったのに気がつく。


「これが、七朱銀和円(700円)とは、安いの」


と、宗矩も下手な芝居をする。


「わりかし安いな、入ってみっか?」


「入ってみっぺよ」


「んだな、物は試しだな」


と、客が少しずつ入りだした。

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