第229話 伊達のお・も・て・な・し・10
次の日、約束の一週間の最後の朝を迎えた。
伊達政宗と飲みながら語り明かしたが、記憶もなくなることもなく二日酔いもなく、いつも通りに目が覚めたので、最後の湯本温泉、佐波古の湯を楽しんだ。
湯を出れば朝食が用意されている。
政宗と一緒に朝食か?っと、思ったが、鬼庭綱元が政宗は具合が悪いと言う。
うん、二日酔いだね。
伊達政宗は驚くほど酒の失敗談があるのを実は知っているが、具合が悪いと言うのを聞き直すような無粋はしない。
それほど、一緒に楽しいひと時を過ごしたのだから。
朝食を食べ身なりを整え、宿を出ようとするときに政宗が出てきた。
「常陸様、申し訳ありません」
「はははっ、やっぱり二日酔い?気を付けなよ。酒は楽しく楽しんで飲める程度に、それと政宗殿、煙草は嗜まれるな」
「えっと、どういう事でしょうか?煙草は薬では?」
「政宗殿、政宗殿だからこそ言うが、俺の陰陽の力で見える政宗殿の食道と言う胃の腑の上で黒い影が見えます。少しでもその影を消したいなら煙草は吸われるな」
伊達政宗、史実歴史時間線では死因は食道癌と推定されている。
煙草はこの時代に渡来し薬として嗜れるようになるのだが、伊達政宗もその愛好者の一人なのだ。
伊達政宗の晩年の様子の記述は事細かく残っており、その症状から食道、もしくは胃の癌が推定されている。
だからこそ、今のうちから注意しておく。
「はい、常陸様の仰られることなら、この政宗、大好きな『ずんだ』さえ断ちます」
「いや、ずんだはむしろ健康に良いから推奨して良いけど酒はほどほど、煙草は吸わない、それをお勧めする」
「はい、かしこまって候」
「ははは、政宗殿、俺はあなたが好きだ。だから良い友人になっていただきたい。同盟などとは言わない。友人だ」
「もったいなき、お言葉、この政宗で良ければいついつまでも」
俺は政宗と握手をする。
大きく武骨な手は武人の鍛えられた手であった。
「そうだ、良いことを一つ、この磐城には地中には良きものが眠っている。それは木材、薪に代わる石炭と呼ぶ黒く光る石、それはよく燃える。いずれ石炭は重宝される時が来る、その日が必ず来るからゆっくりと採掘を試みてください」
「石炭?わかりました。すぐに取り掛かります」
「いや、結構、地中深いから落盤やら事故やらあるから注意して」
「なに、陸前の金堀衆がおりますから」
「そっか、金山が盛んなんだよね、奥州は、出来ればその金堀衆、うちにも回してくれないかな?銅と石炭採掘をしたいから」
「すぐに手配いたして政道のもとに送ります。政道、しっかりと常陸様のお役に立てるよう励むのだぞ」
と、控えていた弟の伊達政道に言う政宗。
「勿論にございます。兄上様」
「風呂で背中を流すくらいせい」
と、さらに言う。
「うん、それは遠慮するから」
風呂を男同士で入るってのよりは、お江と入ったほうが良い。
「マコ~、早くしないと夕方になっちゃうよ」
と、お江が輿のすだれから顔を出して言う。
「あぁ、そうだな。では、世話になった」
そう言って俺は再び五浦城に戻り、南蛮型鉄甲船に乗船し帰路に着いた。
湯本温泉、良い湯だったなぁ。
未来のハワイアンリゾート施設のワイワイ感も良かったが、しっぽりと湯治するのにも良い湯だ。
次は茶々達を連れて来よう。
そう思いながら鹿島城に翌日に入港した。
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