第221話 伊達のお・も・て・な・し・2
勿来を過ぎ、鮫川を渡り小名浜には向かわず湯本に進む。
史実歴史時代線では、有名な日本国のハワイアンリゾートが存在する場所よりは少し北の、もう一山超えれば国宝・白水阿弥陀堂に着いてしまいそうな所にある、湯本神社を中心とした湯治場が栄えていた。
俺の知っている湯本の歴史とは違うが、小名浜城を築城している職人や、磐城の整備をしている者たちがあふれているからこそ湯本は湯治場として栄えているのだろう。
温泉としては佐波古の湯として古くからある名湯だ。
湯本の温泉は程良い加減で温泉の匂いがする。
きつ過ぎず、だからと言って無臭ではない程よい匂いが漂う湯治場。
その湯治宿がひしめき合うところで一件の宿屋に案内された。
勿論、貸し切り。
伊達政宗や重臣が宿泊する宿とのことで、他の宿よりは明らかに外見が違く、高めの塀があり最低限の防衛施設が整っている。
『本陣・湯本』
「お疲れ様でございました。こちらでございます」
と、鬼庭綱元が案内してくれる。
その宿の入り口では従業員と呼ぶべきなのか宿で働いている者であろう人たちが、地べたにひれ伏してお出迎えをしてくれる。
「皆、出迎え御苦労。大納言常陸守様はそのような出迎えを良しとはしない、立って頭を下げていれば良い」
と、俺に代わって言う宗矩。
俺はあまり口を開かないほうが良いのだろうが、
「苦しゅうない、地べたで土下座する必要はない、今宵から世話になるぞ」
と、だけ言うと、
「この宿の主、光衛門にございます。天下の副将軍様を迎えられるとは栄誉の極み、どうかいついつまでも逗留してください」
と、大声で言ってきた初老の宿屋の主は、西〇光さんに似ていた。
「ははは、そんな長居はしないから、二泊かな」
「そんなこと言わないで五泊はしていただかないと困ります」
と、光衛門。
「はっ?なにを申している」
と、眼光鋭き目で宗矩が睨みつける。
「も、申し訳ねえ、綱元様」
と、光衛門。
「申し訳ありません。実は仙台に早馬を走らせまして、我が主に事の次第を知らせてこちらに出向くように手紙を書いた次第で」
宗矩の眼光はさらに鋭くなる。
「宗矩様、二心などありません。当主直々にもてなさせたいだけなのです」
綱元が言うことは本心なのだろう、緊張の空気を感じ、俺は、
「ずんだ~~~?」
と、とぼけたように言うと、緊張が一気にほぐれたのか皆が笑い出した。
「あはははははははははは、常陸様、あはははははは、殿のずんだ餅がよほどお好きなのですね、しかし、あれは夏の枝豆がなければできません、あはははははは」
と、なぜか綱元はやたら受けていた。
「ずんだのもてなしは、うん、大丈夫かな・・・・・・。そうか、政宗殿が直々来るなら一週間だけ泊まろう。それ以上は待たないよ」
「はい、わかりましてございます」
「宗矩、そうそう気を張り詰めるな。伊達と言う男は戦場でなら独眼竜となる者だが、平時にだまし討ちをしてくるような無粋な器量を持った男ではない。そして、父・輝宗殿が健在ならなおさらのこと、俺には政道を預けたと言う借りがあるからの」
と、政道を見ると頷いていた。
「はっ、御大将がそう仰せなら仕方ありませんが、五浦より兵は出させます。他の宿屋も貸し切れるな?」
と、綱元に聞く宗矩。
「も、勿論にございます。すぐに開けさせます」
と、綱元は家臣に指示を出した。
宗矩は真壁氏幹を五浦城に走らせて兵を来させると言う。
仕方ないかとその辺は任せた。
「では、一週間厄介になるぞ」
と、俺は言って宿に腰を下ろした。
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