第219話 領内巡察・五浦城

 俺の領地である常陸国沿岸北部は、現在、藤堂高虎によって城が築かれている。


その城を五浦城(いづらじょう)と命名した。


城は断崖絶壁の地形を生かしながら、平潟から大津と呼ばれる二つの小さな湾を港として組み込んだ海城。


北端が磐城国境の勿来に隣接する鵜ノ子岬と呼ばれる岬で、南端が大津と呼ばれる港。


南北に細長い少し変わった城だ。


城の港に降り立つと、藤堂高虎が出迎えてくれたので見て回る。


絶景で知られる五浦海岸も城内に取り込み、史実歴史線では岡倉天心が六角堂を作る景勝地には、茶室が作られていた。


この岩と太平洋の荒波の風景は藤堂高虎にも何かを訴えた景色だったのだろう。


茶室は奇しくも六角堂に瓜二つで、五浦の海を借景する作りであった。


そんな茶室で一杯の茶を飲みながら、


「流石、藤堂高虎。海防に優れた城を築いてるね」


「お褒めのお言葉ありがたき幸せ、鵜ノ子岬に申しつけられました天守を築いておりますが他の岬には砲台作っております。大砲の手配を頼みたく」


「ん、それは伊達政道が入城と共に手配しよう」


この城は初めっから伊達政道に任せるつもりの城、藤堂高虎に作らせといて悪いが城主は政道なのだ。


「では、陸側を見せて貰うか」


この城はあくまでも海防衛拠点の城で、北の伊達政宗からの防御の城ではない。


磐城との国境に巨大な城を築いてしまうと、いらぬ緊張が生まれる。


だからこそ、城主も伊達政道なのだ。


もし、伊達政道が政宗と結託して謀反を起こしても陸地側が無防備なら攻めやすい。


陸地側を無防備にするのはこの二つの理由からだ。


馬で移動しながら陸側の郭を見に行くと、陸側は街道に沿って土塁の空堀と木組みの柵が設けられたら簡素な作りとなっていた。


藤堂高虎は、やはり城作りの名手。


命じた事を理解し、それにあった物を作っていた。


「申し分ない。堅牢にせず簡素、陸路を通る者に対しての防衛施設ではないと言うのがわかる」


「はい、伊達殿の使者も通られますが、これならいらぬ緊張がないともうしておりました」


最近来た伊達成実の言葉だろう。


磐城から茨城城に来るのに使う街道なのだから。


「そう言えば伊達殿は磐城には城は?」


「はい、なんでも小名浜と言う地に重臣・伊達成実が城を築いてるとのこと、政宗殿は仙台城と呼ばれる城を築いております」


「やはり伊達政宗は港の有用性を理解するか、高虎、もうしばらくこの城はかかるのであろう?くれぐれも、伊達殿を刺激するようなことはなきようにな」


「心得ております。年内には完成致します」


「次は、大洗に予定しているから引き続き頼みたいのだが、高虎、直臣にならないか?やはり、この城を見て改めて思う、与力ではなく直臣にどうだ?1万石を加増し家老の家格で迎えたい、上様には俺から願い出る、どうだ?」


「嬉しき話なれど、しばしのご猶予を」


「まぁ、じっくり考えてくれ」


この日は地元の漁師が本場の鮟鱇のどぶ汁を作ってくれて、舌鼓を打った。


取り敢えず、領内の拠点作りは大丈夫のようだ。


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