第208話 新年の挨拶と新家臣(最上義康)

 新年の挨拶は、伊達政宗の家臣の伊達成実が来たあとは、上杉景勝の家臣・直江影続、相馬義胤の家臣、南部信直の家臣などが名代としてきた。


どうも、俺は東国を任されている立場となっているようだ。


幕府の政治とは一線を離れているため、気が付かないでいたが、副将軍が常陸一国では不釣り合い、下総も領地にしろ。


と、言った織田信長は、これを計算に入れていたのだろう。


名実ともに副将軍なのだ。


そんな中、もちろん羽州探題の最上義光からも新年の挨拶の使者が訪れた。


「御大将、最上義光が嫡男・従兄弟の最上義康が登城いたしましてございます」


と、伊達政道が言う。


「あぁ、最上家はお母様がご出身だよね。一度会ってみたいな、義姫に、ものすごく気丈なお母様だよね?義姫が作る雉の汁食べてみたいな」


と、国民的歴史ドラマファンの俺が思わず口走ってしまうが、最早うちの家臣では俺の言動が可笑しいことには慣れている様子で政道は少し困った顔を見せながら笑っていた。


「はい、我が母は自ら雉を仕留めては料理しますから、美味しいですよ。ぜひ機会がありましたら頼んでみます」


と、言われた。


「義康は広間に通してあるんだよね」


「はい、言われなくてもおそらく膳でもてなせ、と言うだろうと思いまして広間に通してあります。桜の方様も御承知で台所で鶏の首を斬り落としていました」


「ははは、そうかそうか」


俺は対面所となっている小広間に行くと若い小柄な青年がひれ伏していた。


上座に俺が座ると、その青年は緊張しているのか震える声で、


「羽州探題・最上義光の名代として新年の挨拶をいたしに来た次第でございまするぅ」


「おっ、御苦労様。面を上げて楽になされよ、義康殿」


と、言うと驚いた顔をして俺の顔を見ると同時に俺のすぐ下の間に座る政道の顔を見て納得した様子だった。


「雪深い山形から出てくるの大変だったでしょ。今、膳を持ってこさせるから体を温めると良い」


「そ、そんな、恐れ多きことにございます」


と、頭を横に振り恐縮している義康は、神木〇之介君似だった。


「ははは、うちに来た者は皆、料理でもてなしている、皆一緒の事だ気にしないでくれ」


「はっ、はい。ありがたき幸せにございます。あっと、父より預かってまいりました荒巻鮭30匹を献上いたします」


どうやら俺には食べ物を持ってくるのが決まりのようだ。


上杉家からは大量の笹団子が届き、南部家からは陸前の昆布が届き、相馬家からは柚餅子が届けられた。


食いしん坊副将軍万歳?


「ははは、義光殿は殊の外、鮭がお好きだと聞く、きっと美味しい新巻鮭なんだろうね、後でいただくよ」


「お口に合えばと思います。で、一つお願いの義があります」


「これ、義康殿、失礼ですよ」


と、政道が言う。


「良いから、義康殿、言うだけはタダ、申してみなさい」


「はっ、はい。父よりの願いにて、私を常陸様の小姓に加えていただくことはできないでしょうか?」


「えっと、跡取りだよね?良いの?」


「はい、幸い父はまだまだ元気、年衰え家督を譲ることになった際には帰国いたしますが、それまで常陸様の下で学んで来いと父が申しております」


「知っているかどうかわからないけど、当家は働き手が不足しているから大いに歓迎するけど、結構忙しいよ?大丈夫?」


「はい、この義康も身命落とす覚悟で仕えさせていただきます」


「わー、久々に命投げ出す覚悟キター、うちはそれはないから。仕事は忙しいけど交代で必ず休日を取ってもらうし、仕事で失敗しても切腹とか命じないから、体を大切にして働く約束が出来ないなら当家では雇えないよ」


「わかりました。とにかく、常陸様のもとで働かせてください」


「小姓は政道が側近纏役奉行だから、伊達の下になるわけだけど、それも了承できる?」


「勿論にございます」


「だったら、明日からは君は家臣だ。だが、今日は最上家の新年の挨拶の使者、料理を楽しんでれ」


ちょうど廊下から揚げたて唐揚げの匂いがしてきたのでそう返事をした。


すると、襖が開き桜子が揚げたて唐揚げとフライドポテトを山盛りにした膳を運んできた。


・・・・・・。


白い髭のおじさんが作っているみたいな料理でもてなす。


若いかな、義康はそれを喜んで平らげた。


最上義康14歳、小姓として次の日から城で働くこととなった。


新しき家臣。


んー、若い、労働基準法違反な気もするが、宗矩とかもそのくらいから側近をしているから気にしないでおこう。



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