第207話 お隣さんからの贈り物
1589年正月を迎えて家臣たちから年賀の挨拶を受け、酒宴を楽しんでいる。
もちろん、メインディッシュは常磐物の鮟鱇なのだが、悪阻のある茶々の為に今日は鮟鱇の身を湯通しした物を用意。
蒸したあん肝もある。
酢味噌のタレ。
それを漬けて食べる。
これはこれでさっぱりしていて美味いのだ。
安土の織田信忠にも力丸に極上の鮟鱇を新年の挨拶として持たせ俺の代理として登城させた。
家臣ではなくてもそのくらいの一般的な常識的な行動はする。
酒宴を楽しんでいると、
「御大将、兄上からの使者が来ております」
と、政道が言う。
政道の兄はあの伊達政宗。
今は磐城・陸前を領地にしているため隣国の領主。
お隣さんだ。
「おう、会おう。せっかくだからお使者の膳も用意してくれぬか?桜子」
「はい、もちろん正月なので来賓もあるかと思いたんと用意してあります」
桜子に頼むと、城内勤務日なのだろう、あおいが運んできてくれると同時にお使者も入ってきた。
お使者は見知った顔なのだが、礼儀なのだろう。
俺のいる上段の間から離れた下座に座って、頭を下げた。
「新年あけましておめでとうございます。本日は当主・伊達政宗が名代として新年の挨拶に来た次第でございます」
「成実殿、遠慮などせずどうぞこちらへ、膳を用意させましたから」
「これはこれは、天下に名高き黒坂家の料理がいただけるのですか、ありがたい」
と、上座近くの席に座るとあおいが酌をして酒を一口飲み、鮟鱇を口にする。
「おお、鮟鱇は磐城でも食しますがこのような食べ方も上品でまたいい物ですね」
「鮟鱇の酢味噌和えと言いましてね、今、悪阻の最中の茶々の為にさっぱりとしたものと思って作りました」
「これはこれは御懐妊ですか、おめでとうございます。おっと、忘れるところでした。我が殿からの献上品も食べやすいかと」
と、成実が廊下のほうに声をかけるとお供の者が、皿に山に乗った竹に巻かれて少し焼き目の着いたものを差し出してきた。
「政宗手作りの魚のすり身焼きにございます。僭越ながら献上する前に毒見を御前でさせていただきます」
「はははははははは、必要ないよ。政宗殿はそのような料理に毒を入れるような御人ではないはず、一本いただきます」
と、俺が魚のすり身焼きを手に取り口にした。
「ん、んんんん?ん?」
と、俺が唸ると、宗矩が腰の刀に手を置いて今にも成実に斬りかかりそうな気まずい雰囲気になる。
「常陸様、いかがいたしました?」
膳をどかして身を乗り出す成実。
「あっ、ごめん。宗矩、違うから手を戻して。成実殿、これ笹かまですよね?」
「魚のすり身の竹筒焼きにございますが、お口に合いませんでしたか?」
「いや、美味いよ。ほら、皆も食べて」
と言うと家臣達や茶々達も口にして美味しいと言う。
「これ、『笹かまぼこ』って命名すると良いよ。伊達の『笹かま』きっと名物になるから」
「はっ、我が主にそのように伝えます」
成実が持ってきたのは、笹かまの原型だった。
中々美味いのだが、戦国武将・伊達政宗がすり鉢で魚をすりつぶしているのを想像するとなぜか不思議と笑いがでた。
勿論、三日月の兜を被って料理をしているわけではないのだろうが戦国武将が料理をする。
不思議な物だ。
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