第205話 餅搗き

当家では毎年恒例の年の瀬の餅つきだ。


茨城城の本丸御殿の庭で鏡餅を作るために餅をつく。


家臣や餅屋に頼むことも出来るが、味気無い。


つきたての餅の味は別格だし、自分達でやりたい。


桜子三姉妹は、元々下働きから側室になっているので、働く事には文句もなく率先して働いてくれる。


浅井の姫出身の茶々達三姉妹も御嬢様なはずだが、楽しんでいるようで働いてくれる。


ありがたい嫁達。


ただ、今回は茶々は餅米を蒸す匂いで悪阻が出るらしく、茶々には鏡餅形成を頼む。


男手は俺と宗矩と政道、そして、ほくほく顔で腕捲りをしている正純。


時代劇で見た本田正純のイメージをことごとく壊してくれる。


正純の食いしん坊万歳。


蒸しあがった餅米を次から次に正純が搗き、絶妙なタイミングで宗矩が引っくり返していた。


まるで、平成時代にテレビで見たような素早さ。


ペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタン、ウニュ、ペッタンペッタンペッタンペッタン、ウニュ、ペッタンペッタンペッタンペッタン、ウニュ


「そいやさー」


「えいやさー」


「そいやさー」


「えいやさー」


俺の出番がないようなので、俺は藁納豆を皿に取り出し醤油を入れてかき回す。


醤油に砂糖を一匙入れたものも用意。


擂り潰してあるきな粉に砂糖をまぜまぜ。


最後の餅にかけるためだ。


「どれ、最後の餅ぐらい俺が搗きたい」


と、杵を受け取り政道とのコンビで餅搗きをする。


「よいしょ、よいしょ、よいしょ」


「真琴様、腰に力が入ってませんよ、しっかりつかないと美味しい餅食べられませんよ」


と、お初に言われてしまった。


最近、剣の稽古サボりぎみだったからだな。


「常陸様、美味しい餅を食べるため私が代わります」


と、再び正純に杵を奪われてしまった。


仕方あるまい。


正純はトロトロフワフワの餅をつきあげた。


茶々達が拳大に千切ってくれる。


「お疲れ様、三種類のタレを用意した、好きなのをかけて食べてくれ」


「待ってました。常陸様が作る一風変わった料理」


平成なら一般的なんだけどね。


「あっ!正純、詰まらすから急いで食べない。十分に用意してるから」


砂糖醤油をかけた拳大の餅を一口で食べようとしていた。


「ははは、すみません。しかし、美味い流石、常陸様」


正純は三種類のタレを漬けて次々に頬張る。


茶々達も食べる、どうやら甘いタレのきな粉と砂糖醤油が人気。


俺は納豆餅。


「夏なら兄上様考案のずんた餅に出来ますのに」


と、政道が呟いた。


「うっ、うん、あれはあれで美味しいけどね、ははは」


新鮮な枝豆の味を匂いを100パーセント引き出した伊達政宗考案のずんた餅。


悪くはないけど、好んでは食べないかな。


枝豆大好きにはたまらない一品なのだろうけどね。


腹を叩いて満足そうな正純。


「料理をして満足してもらえるって嬉しいな。ただ、正純、食べ過ぎるなよ。家康殿と同じ腹になりつつあるぞ」


「ははははは、すみません」


正純もメタボ化しそうだ。


今年も無事に終われる。


来年は家族が増えるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る