第196話 茨城城

 新土浦城は完成した。


ただし、天守の黒幕はまだかかっている。


落成除幕式として、祭りの開催を1588年10月1日に決めて、準備を桜子に頼んだ。


城を一般開放し、中を見てもらう。


そして、料理も振舞うのだ。


黒坂家自慢の絞めたて毟りたて捌きたて揚げたて唐揚げ、豚の串カツ、カレー、とうもろこしの醤油焼きを振舞う。


城の一般開放なんて、時代的に変だろなどとは言われそうだが、織田信長も安土城の完成時に入場料を自ら門で徴収して見せると言う遊びをしていると言うのは史実だ。


俺は俺の萌美少女の装飾を見てもらいたかった。


1588年10月1日


大手門には開門を待つ長蛇の列。


鉄黒漆塗風神雷神萌美少女門。


「なんだ、この装飾は?」


「可愛い」


「今にも飛び出てきそう」


「殿様の趣味らしいぞ、大丈夫なのか?新しい御領主様は?」


「いや、だめだっぺ、娘っ子、手当たり次第に手籠めにするんでねえか?」


などと、門の影に隠れていると聞こえてくる。


二次元と三次元は別腹、三次元の嫁はもう十分と、思っている。


「城門を開けよ」


と、俺の合図で、城門は開き見物客は入ってきた。


「すげー」


「流石、織田家の軍師様の城じゃ」


「こんな、装飾、神社でも見ねえな」


と、声が聞こえる。


よしよし、みんな驚いているな。


三ノ丸と二ノ丸を隔てる広い通りで料理を振舞うためのお祭りの出店のようなものを並べた。


今日は、めでたい日。


料理は無料で振舞う。


「なんだこれ、鶏がこんなになるなんて」


「うめーーー、こんな物、初めて食う」


「肉、美味いな、うちでも鶏飼うか」


「豚、美味い、猪より食べやすいな」


などと、声が聞こえた。


料理は大盛況。


桜子率いる、台所方は大忙しだった。


それを見届けると、俺は天守最上階に上る。


除幕の為に。


・・・・・・茶々、お初、お江・・・・・・。


茶々は薙刀を構え、お初は火縄銃を構えていた。


お江は笑っている。


「ば、ばれたか」


「除幕の前に覗いてみたら何なのよこれ、煩悩の塊みたいな天守は」


と、お初が激怒している。


「この煩悩を断ち切ってくれましょう」


と、茶々もお怒り。


「マコ~、私は好きだよ、可愛い女の子いっぱい、しかも楽しそう、みんな笑っている。そんな国を作りたい、すごくわかるよ」


と、言う。


「そ、そうなんだよ、この天守の装飾は俺から皆への俺の国作りの為の目標を見せる為の装飾なんだよ」


そんなことは、全く考えてはいなかったが、お江の勝手な解釈に乗っかることにした。


「真琴様、そのようなお考え深き意味があるなんて・・・・・・申し訳ありませんでした」


「思惑がこんな装飾にあるなんて」


と、茶々は薙刀を収め、お初は火縄銃を収めた。


「女子供が楽しく過ごせる国家、それが俺の理想、さっ、そこをどいて除幕をさせて」


俺は最上階に上り、火縄銃の空砲を放つと、屋根に上っていた裏柳生の忍び達がてっぺんの幕を切り裂き、下で綱を持っていた家臣たちが一斉に引っ張り幕が下りた。


漆黒の望楼型天守。


壁は鉄黒漆塗り、その黒の下地に金で装飾された左甚五郎作、美少女遊興彫り装飾108体は異質極まりない物。


下で見ていた見物人は、声を出せずに固まっているのが見えた。


俺は最上階の高覧から身を出し。


「この装飾は、我が領内、いや、日本国内ですべての者が笑顔あふれ、生きていくことが出来る国にすることを約束する俺の気持ちである。皆、そのために力を貸してくれ」


と、大声で言うと。


少しずつ拍手がされ、


「大納言常陸守様、万歳、万歳、万歳」


と、聞こえてきた。


なんのメッセージ性などと考えていなかったがお江のおかげで、助かった。


お江の頭を優しく撫でると喜んでいる。


「なお、この城の名は茨城城と改名いたす。皆、承知してくれ」


と、言って俺は室内に消えた。


新土浦城は茨城城となった瞬間だった。


この城、別名が萌城と呼ばれるようになるのを知ったのはずっと後の事だった。

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