第181話 慶次プロデュース花街

「真琴様、慶次が作っている街に良からぬ噂があります」


ある日、茶々に唐突に言われた。


新土浦城と土浦城の間には桜川がある。


その北側の土手と町作りには早くから慶次が力を入れて整備している。


町作りにまで手が回せないので任せっきりになっていたが、気になる。


平成の世では歓楽街・・・・・・、茨城県最大級風俗街、嫌な予感がする。


嫌か?嫌ではないか。


タイムスリップする前は高校生だったから、憧れの街だった。


大人になったら魅惑が渦巻く風俗街に行ってみたい、エロい事してみたい。


純粋と言えば可笑しな言い方だが興味津々、それが高校生男子たるもの。


しかし、今は毎夜交替で5人の女性を抱く身、その憧れも今はなく、国を納めなければならない身としては女性が泣かない、苦しまなくて済む国を作りたい。


念のため巡察として、行く事にする。


吉原になってないよね?


巡察として、行くと俺の身分がバレバレで現状を隠す可能性がある。


そこで、身分を隠してこっそりと、夕日が落ちてから向かった。


護衛は隠れながら、裏柳生が30人以上はいる。


桜川の土手沿いを霞ヶ浦に向かって歩くと、飲み屋街、浅草の飲ん兵衛横丁みたいな軒先に椅子とテーブルを出した街だった。


見るからに酔っぱらいはいるが、身売りをしている様子はない。


昼間、城作りをしている者達が酒を飲み食べ物を口にしている。


良い匂いがするが取り合えず、巡察をしてからだ。


歩みを進めると、歓楽街の奥になると雰囲気が変わりだしてくる。


そこは、三味線なのか琴、絃楽器と太鼓と笛の音の音楽が流れる居酒屋よりも格が一段高い芸子がいる店が見える。


一階の開いている窓から店の様子を伺えば、舞妓が躍りを踊りそれを少し身分が高そうな武士達が見ながら酒を酌み交わしている。


まだ、健全に見える。


さらに奥に進むと、木柵で区切られ簡単な作りの赤い門が見えた。


門は開いているが、両脇に門番らしき者が立っているが行き交う人々は特に止められもせず行き来している。


俺も通って奥に進もうとすると、


「御大将、なぜここに?」


と、後ろから声をかけられた。


慶次だ。


「いや、巡察だよ」


慶次は頭をわしゃわしゃと掻きながら、


「御大将、あなたのような方はここに来るべきではない、特にこの奥は」


「慶次、それはどういった意味?」


「立ち話もなんですから、こちらの店に」


と、案内されたのは先程覗いた女性が踊っていた店の二階だった。


下から音楽が聞こえては来るがさほど騒がしくはなく話すには悪くない店。


窓の外には桜川が見えた。


「まずは一杯飲みましょう」


と、酒を杯に注がれ口にする。


酒は好んでは飲まないが嫌いでも下子でもない。


「慶次、あの奥は女を売り買いする場か?」


と、慶次に単刀直入に言うと首をたてに頷き返事をした。


「需要と供給です。御大将、奇麗事では町は作れません。多くの男達が働く場には息抜きをする場が必要なんです」


「俺も男だ、わからなくはないが人身売買となると目はつぶりたくはない、出来ない」


「御大将、それが奇麗事なんです。貧しい農家の娘達は口減らしや年貢を納めるために売られます。その買手があそこなのです」


「やはり、遊廓か?」


「はい、それを一夜買いに来る、客がいるからこそ成り立ちます」


「わからなくはないんだぞ、そう言った欲望の捌け口は必要なのはわかる、でも人を売り買いするのは、好かん」


「では、売られる女どもを買わなければどうなるかご存知か?」


慶次は杯を置き真面目に言った。


「え?どういう事?」


「女どもを買って南蛮に売り飛ばそうとするやからは大勢いるのです」


「異国に?奴隷貿易じゃないか?」


「はい、南蛮の宣教師に同行している者に奴隷商人が隠れています。俺はせめて、女達を外に売られないようにしたくて、この町を作りました。女達は年期が開ければ親元に、故郷に帰れます。南蛮に売られたらそうは行きません。目をつぶっていただけませんか?」


俺は慶次の言葉をぐっと飲み込む。


「売り買いされることがなくなる世を国を作りたい」


「はい、わかってます。それまでの受け皿として」


「慶次、慶次がしっかり管理し、騙されて売られた者などいないこと、店が女どもを虐待しないこと、年期をしっかりと決め済んだら希望の地に帰すこと、病気の蔓延に注意すること、店からは税を取りその金で女達が身を売らなくても済む働き場の整備をすること、遊廓はこの地だけとして増やさないこと、許可なしの店の営業を厳しく取り締まること、それを条件に俺は目をつぶる」


「御大将、御英断かと」


「英断と言えるときは売り買いされる女がいなくなるときだ、今は苦しむ女がいるんだからまだまだだめなんだ」


そう言って杯に慶次が注いでくれた酒を口にした。


土浦城に戻ると茶々が帰りを待っていた。


何時ものように一杯の茶を点ててくれる。


それをグイット飲む。


今日は少し濃いめ、でもその苦味が良い酔い覚ましになる。


「いかがでしたか?」


「取り合えずは慶次に任せる。国を納めるには奇麗事だけでは済まないのは知っていたが人身売買が普通な時代とは嫌なものだ」


「私もそう思います」


「茶々、女達の働き場を作ってはくれぬか?」


「働き場?」


「そうだな、取り合えず思い付くのは生糸の生産、反物を作る場だな」


「生糸、蚕を飼って生糸を作り反物を作る、ですが、作った反物が売れなくてはならないかと思いますが?」


「それは南蛮交易で海外に売り出すから」


「なるほど、異国に売る、なるほど、さっそく少しずつですが始めてみましょう」


「すまないな、うちは人材不足で茶々達が働かなくてはならないのだから」


「お初にそんなことを言ったら蹴られますよ。初めから真琴様に協力して国作りをしたいと思っているのですから、私たちは家臣も一緒、と考えてくれてかまいません」


「ありがとう」


茶々とお初は、養蚕業、生糸、反物を作る為に働きだしてくれた。


慶次には改めて桜川町奉行を任命して、治安維持管理業務を行わせることにした。








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