第177話 安土城
俺は蘭丸に用もあり、また、信長に渡すものもあるため、南蛮型鉄甲船で安土城に向かう。
土産に鮟鱇を固めた雪を積めた箱に入れて。
大阪城経由で安土城に入ると、地震で被害にあった天主は建て直されて形になっていた。
形そのものは前天主と変わらないが、一階の柱が地中にしっかりと埋められ、その上の階は五重塔のような地震の揺れを受け流す為の構造で作られている。
壊された前の天主は東に見える破却された観音寺山城に使われているようで、そちらにも城の形が見え始めていた。
「蘭丸殿、用があり登城しました」
森蘭丸は下総に領地を貰ったが長浜城再建と信長側近としての仕事を優先して近江にいる。
「家臣から聞き及んでおります。香取にある神宮の整備ですね、そちらは森家としても守り神として整備をさせますのでご安心ください。常陸大納言様には監修をお任せいたします」
「話が早くて助かります」
「徳川家康が常陸大納言様に借りがあると言っているように、我ら森家三兄弟も返しきれない借りがあります。そのくらいのことはお好きになさってもらって構いません。出来れば、霞ヶ浦、北浦、利根川の治水工事にも人を出したいのですが、我が領地も城を改修しておりまして」
「大丈夫です。家康殿の兵が手伝ってくれてるから」
「食べ物で釣っているのですね?」
「ははは、想像通りで」
「信長様は?」
「御殿におります」
「桜子、梅子、台所借りて『どぶ汁』を頼むよ」
今日は料理を作らせるために桜子と梅子を同行させている。
二人は台所に向かう。
「蘭丸殿、いつもの話しもあるので茶室あたりが」
「あぁ、なるほど、では、いつもの茶室へ」
信長と秘密の話があるときに使ういつもの茶室に向かう。
茶室と言っても俺が茶を沸かす囲炉裏で料理をするものだから、専用に改築され実際は茶室ではない部屋で待つ。
小一時間で信長が入ってくる。
「なんだ、常陸、常陸国に行ったばっかりなのに」
と、言われた。
「これを持ってきました。他の人に見せられないので」
と、俺は土浦城でうろ覚えの記憶で書いた世界地図と新土浦城と高野城の縄張りの絵図面を渡した。
世界地図は信長との約束の品、城の縄張りの絵図面は俺が信長に敵対心がないのを見せるための物。
「世界地図か、ご苦労、あとでゆっくり見る、それよりなんだ、この複雑な縄張りの城は?」
火器戦を想定している稜堡式と輪郭式が合体した新土浦城の縄張りの説明をすると、
「おもしろいな、南蛮にもあるのか?」
「はい、確かこの国にブルタング要塞と呼ばれる総構えの城塞都市があります」
俺が書いた世界地図のイタリアを指差して言う。
「大砲戦を想定するなら山城のほうが良いかもしれんな」
「信長様は、想定して観音寺山城を作っているのでは?」
「ぬはははははははははは、馬鹿ではないの、常陸、観音寺山城には砲台を設置した山城だ」
「守りの城ですね」
「わしのあとも織田を続かせるには守りも必要だからな」
と、絵図面を見ながら語っていた。
「失礼いたします」
と、桜子の声がする。
「桜子か?どぶ汁だな」
「はい、出来ました」
と、鍋ごと運んできたので囲炉裏に乗せ、お碗によそう。
「常陸国の名物、鮟鱇のどぶ汁にございます」
と、信長に出すと、
「お、今日は揚げ物ではないのだな、ん、どれ」
と、食べ始める。
「なかなか、濃厚な汁が美味いな、体も温まる」
「自慢の常陸名物です」
「常陸に帰りたかったのはこれを食べるためか?」
「ははははは、確かにそれもありますね、でも、時代はちがくても故郷は良いものですよ」
「そうだな、わしは長良川の鮎が好きなのと同じかもな」
「常陸国、近江に、安土に負けない繁栄をさせて見せますよ」
俺はそう言ってとんぼ返りで常陸国に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます