第172話 高山右近重友

「御大将、安土から高山右近が参りました」


と、宗矩がストーブを背にしながら執務を行う俺に言ってきた。


「高山右近?」


「はい、なんでも上様の命により与力を命じられたとのこと」


土浦城の本丸の仮の対面所となっている広間に行くと、見慣れたルイス・フロイスと和服にロザリオを首から下げた武将が座っていた。


「おぉっと、ルイス殿も同伴ですか?」


「はい、常陸大納言様の都市は発展に期待できます。多くの信者を集めることが出来ます。常陸に南蛮寺の御許可を」


と、ルイス・フロイスは言う。


「強制的勧誘、古来からの寺社仏閣と争いを起こさない、それが約束されるなら俺は宗教の自由は保障しますよ」


「おお、ありがとうございます」


「それがし、上様の命により人材が不足しているという常陸大納言様の与力を拝命いたしました高山右近と申します。私からもキリシタンに対する寛大な御配慮、御礼申し上げます」


と、高山右近は言ってきた。


「あ、はい、キリシタンだったよね」


「はい、洗礼名ジェストと申します」


「右近、えっと家で働くなら職場での無理な勧誘はやめてね」


「もちろんにございますが、デウスの素晴らしさを皆に広めたいと思います、常陸大納言様にもぜひ」


「んと、聞いてない?俺一応、陰陽の力を神仏からお借りして使うのよ、だから、改宗はしないからね」


「そうですか、残念です」


「で、右近は何が得意?」


「城作りも致しますが、最近小耳に挟んだのが、食用の牛を常陸大納言様はお求めになっているとか、我が家では牛を食用にするのに飼っております。土地をおかしいいただければ牛を増やしますが」


聞いたことがあるぞ、史実時代線での小田原城参陣の時に牛鍋を振舞ったとか、牛鍋パーティーをしながらキリスト教を布教したとかしないとか、近江牛のルーツが高山右近だとか聞いたことがある。


「牛、育てられるならそうだな、筑波山のふもとに広がる平地あたりで牧場作ってもらおうかな、牛、肉も食べたいのだけど乳も欲しいんだよ」


「お任せください。本日も我が領地で作らせた牛の味噌漬けと蘇を持ってきております」


と、風呂敷に包んだ重箱を出してきた。


「おー、久々に牛が食べられる。しかし、味噌漬けなんだ、あまり食べたことがないのだけど、蘇は知らないな」


「これをネギなどと煮て食べると美味しいございます。蘇は牛の乳を煮詰めて作った滋養強壮の薬にございます」


「では、これはありがたく貰うとして、高山右近、畜産奉行に任命し、牛の畜産を頼む」


「はっ、心得ましてございます」


「あっ、牛、今井宗久にも頼んであるからあとから増えると思うからよろしくね、それと、もう一つ、城づくり得意だよね?笠間城と水戸城を改修を頼みたいのだけど良いかな?ゆっくりで大丈夫だから」


「わかりました。先ずは下野からの守りとなる笠間城の整備を始めます」


「笠間、って稲荷神社の聖地でもあるからくれぐれも仲良くやってよ、黒坂家としては寺社は大切に保護したいのだから」


「わかっております。上様に常陸大納言様の言う事に従えとの厳命を受けておりますので」


「では、今日の夕飯は皆と顔合わせもかねて、この牛肉で皆と一緒に食卓を囲んでもらうから」


この日の夕飯は高山右近が持ってきた牛肉の味噌漬けを使った、牛鍋にした。


牛肉の肉質は、平成の牛とは程遠く硬く、脂身が少なかったが久々の牛の肉、やっぱり独特の味は美味い。


しかし、味噌がしょっぱいので俺は生卵を溶いてそれにくぐらせて食べた。


味噌仕立てのすき焼きみたいな食べ方。


しょっぱさを中和して、美味い。


茶々達、桜子達、力丸、慶次、宗矩、幸村、政道、・・・・・・そして、緑の狸も匂いにつられて食べに来ていた。


家康、アブラギッシュ狸になってきている気がするが大丈夫なのか?


蘇、一見チーズにも見える物体、口に入れると明らかにチーズとは違う。バターとチーズをドッキングさせたような濃厚な乳臭さが口に広がる。


ブルーチーズのように臭いわけではないが何とも表現のしように困る味。


滋養強壮の薬・・・・・・薬として食べるなら特段不味くはないけど、普段から食べたいとは思えない味。


だが、滋養強壮の薬と聞いて、家康は熱心に製法を高山右近から聞いていた。


健康マニア徳川家康か。


美味いチーズケーキ食べたいなぁ。





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